インビザライン治療を検討している方々の中には、「矯正前に親知らずを抜歯する必要があるのか」という疑問を持つ方が多いです。このコラムでは、インビザライン矯正における親知らずの扱いについて解説します。
目次
親知らずの存在とインビザライン治療
インビザラインは、透明なマウスピースを使用して歯を動かす治療法で、見た目と快適さに配慮されており、大人の方に人気のある治療法です。
しかし、親知らずの存在は、歯並びを整えるという目的に影響を及ぼすことがあります。特に、他の歯を押していたり、歯列に影響を与えると診断された場合は、治療計画の邪魔になったり、治療中の歯の動きを妨げたりする可能性があります。
そのため、治療の効果を最大化し、長期的に美しい歯並びを維持するために、親知らずの抜歯が必要な場合があります。さらに、矯正治療中に歯茎の中から親知らずが出てきた場合でも、他の歯への影響がある時は、治療途中であっても抜歯を行うことがあります。
インビザライン治療前に親知らずを抜くメリット
インビザラインでの矯正治療の前に事前に抜歯することのメリットは、以下のようなものです。
1. 歯を動かすためのスペース確保
インビザラインでの矯正治療では、歯列全体を後ろに下げる(送る)という歯の移動が行えます。そのため、インビザライン治療で親知らずを抜歯すると、抜歯した後のスペースを歯の移動に使うことが出来、よりきれいな歯並びに整えることが出来ます。
2. 矯正治療後のきれいな歯並びの維持
親知らずの生え方によっては、隣の歯を押してしまって歯並びに影響が出る場合があります。そのため、残しておくと、治療後にきれいに整った歯並びに影響が出る可能性があります。
抜歯を行うことで、隣の歯を押すことを避けられ、治療後のきれいな歯並びを長期にわたってキープできる可能性が高まります。
親知らずを残したまま矯正する場合のリスク
矯正治療をするにあたって親知らずを抜かずに残しておくと、下記のような問題が生じる可能性があります。
1. 歯磨きがしにくい
親知らずは奥歯の更に奥に生えているため、歯ブラシが届きにくく、きれいに清掃することが難しくなります。そのため虫歯や歯周病になるリスクが高まり、注意が必要です。
矯正装置をつけると、更に歯みがきが難しくなる場合があり、虫歯になるリスクも上昇します。
2. 他の歯を押すと歯並びに影響が出る
親知らずが生えて来る際に他の歯を押し続けると、矯正の治療計画通りに歯が動かず、効果が低下する場合があります。
親知らずの生え方と抜歯の必要性
生え方 | 抜歯の必要性 | 説明 |
---|---|---|
まっすぐに生えている | 必要なし | 歯列に影響を与えない場合は抜歯不要 |
斜めや横向きに生えている | 必要あり | 他の歯を押すため抜歯が推奨される |
歯茎の中に埋まっている | ケースバイケース | 炎症や圧迫がある場合に抜歯が必要 |
親知らずの抜歯のタイミングとその理由
タイミング | 理由 | 説明 |
---|---|---|
矯正治療前 | スペース確保 | 歯を動かすためのスペースを作り、歯の移動を円滑にするため |
矯正治療中 | 他の歯への影響回避 | 治療中に親知らずが生え、他の歯を押す可能性があるため |
治療後 | 維持のため | 矯正後の歯並びを保つために必要 |
親知らずとは
親知らずは第三大臼歯と呼ばれ、前歯から数えて8番目に位置します。大人になってから生えることが多いため「親知らず」と呼ばれます。
親知らずが生える本数
生える本数には個人差があり、上下左右の4本全てが生える人もいれば、全く生えてこない人もおり、1~3本生える場合もあります。
親知らずの生え方
生え方にも真っ直ぐ生える、斜めに生える、横向きに生える、一部が歯茎に埋まっている、完全に歯茎に埋まっているなどの種類があります。
親知らずの生え方が歯並びに及ぼす影響
親知らずはその生え方によって、隣の歯等に様々な影響を与えることがあります。レントゲン撮影を通じて生え方や状況を確認出来ます。
1. まっすぐに生えている
真っ直ぐに生えていて、隣の歯を押していない場合は、抜歯の必要はありません。しかし親知らずは一番奥に生えているため、歯磨きが難しく虫歯になりやすいので、日々の歯磨きが重要です。
2. 斜めや横に生えている
斜めに生えている親知らずは日本人には多く、中には完全に横向きになっている場合もあります。斜めや横向きに生えている場合は隣の歯を押しているため、抜歯が必要になるケースが多いです。そのままにしておくと、歯磨きが難しく、虫歯や歯周病になりやすいです。
3. 歯ぐきの中に埋まっている
親知らずが歯茎の中に完全に埋まっている場合、一見問題がないように見えますが、歯茎の中で隣の歯を圧迫していることがあるため、最終的には抜歯が必要です。しかし、歯茎に完全に埋まっている場合の抜歯は難しいため、大学病院をご紹介するケースもあります。
矯正治療を行わない方の場合は、埋伏している場合の抜歯は大学病院を受診する等、大変な場合があるため、問題がなければそのまま経過観察とし、親知らずの周囲に智歯周囲炎と呼ばれる炎症が起こった段階で抜歯を行うケースもあります。
まとめ
インビザライン矯正治療において、親知らずの抜歯の必要性はその生え方に依存します。親知らずが歯列に影響を及ぼす場合、抜歯が推奨され、矯正治療の効果の向上と歯並びの長期的な維持に繋がります。
一方、親知らずを残す場合、歯磨きが難しく虫歯や歯周病になるリスクが高まります。最終的な判断は担当医との相談に基づいて決定されます。
▼インビザラインについてはこちらで詳しく解説しています
インビザライン治療では親知らずの抜歯が必要になるかどうかは、個々の症例によります。以下の論文によると、インビザラインは抜歯が必要でない中程度から軽度の不正咬合を扱う場合に効果的ですが、特定の症例では抜歯が必要になることもあります。
1. 下切歯の抜歯とインビザライン治療 Giancottiらによる2015年の研究では、インビザライン治療において下切歯の抜歯が行われる場合があることが示されました。これは、中等度から重度の下切歯の混雑に対処するために行われます。インビザラインは、精密な歯の移動と患者の不便を軽減する治療法として使用されました[Giancotti, Garino, & Mampieri, 2015]
2. 上顎第一小臼歯の抜歯とインビザライン治療 Giancottiらによる2006年の研究では、重度の圧迫を伴う上顎および下顎の歯列で、上顎第一小臼歯を抜歯することによってインビザライン治療が行われました。この研究では、歯列の整列は成功しましたが、抜歯部位の隣接する歯の正しい傾斜を実現するために、固定式装置を使用する必要がありました[Giancotti, Greco, & Mampieri, 2006]
これらの研究は、インビザライン治療において特定の状況下で抜歯が必要になることを示しています。しかし、親知らずの抜歯に特化した研究は見つかりませんでしたので、個々の症例に応じた専門家の判断が必要です。