裏側矯正で叢生(ガタガタの歯並び)は治るのかについてご説明します。
目次
裏側矯正とは?
裏側矯正は、歯の表側にワイヤーとブラケットを付けるワイヤー矯正に対し、歯の舌側に装置を付けます。なるべく目立たない装置で、矯正中であることを他人に知られたくない、というニーズから生まれました。
上の歯は裏側矯正で、下の歯はワイヤー矯正という、ハーフリンガルと呼ばれる方法もあります。この場合は、上下を裏側で行うよりは費用がやや抑えられます。
インコグニトのワイヤーは、患者さんの歯並びのデータを元に、ベンディングロボットによって適切に曲げられたものが届きます。ガタガタの歯に合うように、精密にワイヤーが屈曲されています。
歯列を後ろに引っ張る場合は、口蓋の部分にアンカースクリュー(ミニインプラント)を打ち、それを固定源として歯を引っ張って後ろに下げていきます。
アンカースクリューは細く小さいネジ状のもので、打ち込むのも撤去するのも数分で可能です。口腔内は傷の治りが早いため、撤去痕は数日で治癒しますアンカースクリューを使うことで、歯のデコボコだけでなく、出っ歯気味の前歯を引っ込めることも出来ます。
叢生とはどんな歯並び?
叢生(そうせい)とは、乱杭歯とも呼ばれ、ガタガタに乱れた歯並びのことをいいます。八重歯もその一種で、八重歯は犬歯が外に飛び出た状態のことです。
ガタガタの歯並びになる原因は、上顎や下顎があまり発育しなかったために小さい場合に、歯がきれいに一直線に並びきらずに歯列から飛び出たり、歯列そのものがガタガタになってしまうというものです。
また、1本1本の歯のサイズが大きいために、歯がきれいに並ぶためのスペースが十分になく、歯が斜めになったり重なったりしてガタガタになる場合もあります。
裏側矯正で治療可能な叢生のケース
裏側矯正で治療可能な叢生のケースについてご説明します。
1. 軽度から中等度の叢生
軽度から中度の叢生は、裏側矯正で十分に治療可能です。歯の位置が少しずれている程度であれば、矯正装置を使って歯を正しい位置に移動させることができます。
2. 歯のスペース不足による叢生
歯列に十分なスペースがない場合、歯が重なり合うことがあります。このようなスペース不足が原因の叢生も、裏側矯正で治療可能です。必要に応じて小臼歯を抜歯したり、歯の一部を削るIPR(ディスキング)でスペースを確保することもあります。
3. 重度の不正咬合を伴う叢生
開咬、交差咬合、などの重度の叢生も、裏側矯正で治療可能なケースが多くあります。ただし、この場合、治療計画が複雑になることがあり、治療期間も長くなる可能性があります。
裏側矯正で治療が難しい叢生のケース
裏側矯正で治療が難しい叢生のケースについてご説明します。
1. 重度のスペース不足による叢生
歯列に極端なスペース不足がある場合、歯が重なり合ってしまい、歯を動かすための空間が十分に確保できないことがあります。特に裏側矯正では、装置が歯の裏側に装着されるため、表側矯正と比較して歯を動かすための力のコントロールが難しくなることがあります。これにより、十分な矯正効果が得られないケースがあります。
2. 重度の不正咬合を伴う叢生
上顎前突、下顎前突、上下顎前突などが重度の場合や、骨格が原因で不正咬合が起こっている場合には、裏側矯正では適切な治療が難しいことがあります。
これらの咬合の問題を改善するためには、精密な力のコントロールが必要であり、場合によっては外科的手術が必要となることがあります。このようなケースでは、表側矯正や外科矯正(セットバック整形など)の方が適している場合があります。
3. 歯の位置が極端にずれているケース
歯の位置が極端にずれている場合、裏側矯正では十分な力をかけて歯を移動させるのが難しく、期待通りの結果が得られない可能性があります。また、歯の移動が遅くなるため、治療期間が長引くこともあります。このような場合、ワイヤー矯正を併用することが推奨されることがあります。
4. 顎の成長による不正咬合
成長期の患者さんで、顎の成長により不正咬合が生じる場合、裏側矯正のみでは適切に対応できないことがあります。成長期には、顎の成長をコントロールするための矯正装置や、成長を促進または抑制する装置が必要になることがありますが、裏側矯正ではこれらの装置を効果的に使用することが難しい場合があります。
5. 精密な調整が必要なケース
裏側矯正では、歯の裏側に装置が装着されるため、装置の取り付けや調整が難しくなります。特に、微調整が必要なケースでは、装置の位置が見えにくいため、歯科医師のスキルが問われます。
裏側矯正インコグニトの特徴
当院での裏側矯正の装置は、主にインコグニトを使用しています。
インコグニトはオーダーメイドの舌側矯正(リンガル矯正)システムです。歯の裏側にワイヤー、ブラケットを付けますので、他人から見えにくい装置です。
オーダーメイドならではの良さとしては、ブラケットを歯のカーブに合った形状に作ることが可能で、ブラケットの厚みを薄く出来るため、違和感が少なく発音障害も以前の装置よりも減っています。
【動画】インコグニトによる歯の動き方
叢生の治療方法
歯並びがガタガタの場合の治療は、歯と歯の重なりの大きさによって抜歯を伴う矯正が必要がどうかが決まります。
歯のアーチが狭かったり小さかったりする場合には、歯列を広げるための装置を使います。小児矯正では子供の成長を利用してアーチを広げていきますが、大人の場合はもう骨の成長が終わっているため、アーチはあまり大きくは広がりません。そこで、インプラントアンカーを用いて歯全体を後方へ引っ張って下げることによって、歯を並べるためのスペースを作って治療を行います。
使用する装置別の方法としては、ワイヤー矯正、裏側矯正、マウスピース矯正が選べます。
※当院では裏側矯正の装置はインコグニト、マウスピース矯正の装置はインビザラインを使用しています。
裏側矯正で叢生は治るのかに関するQ&A
歯の裏側に装置を付けるため、外からはほとんど目立たず、見た目に配慮した治療が可能です。これにより、治療中でも他人に知られづらく、審美面でのメリットがあります。
叢生の治療において抜歯が必要かどうかは、歯と歯の重なりの大きさによって決まります。歯を一列に並べるためのスペースが足りない場合は、スペースをを確保するために抜歯を伴う治療が必要となることがあります。
歯の裏側にワイヤー、ブラケットを取り付ける治療方法です。特に「インコグニト」はオーダーメイドの舌側矯正システムで、他人から見えにくく、装置をつけた時の違和感が少なく、発音障害も減少する特徴があります。
まとめ
叢生を裏側矯正で治す場合の方法などについてご説明しました。人からは見えにくい装置のため、装置をつけたままで結婚式に臨まれる方もおられます。
裏側矯正(リンガルオーソドンティクス)を用いた叢生(歯の密集)の治療に関する研究は以下の通りです。
1. 裏側矯正と叢生の治療
裏側矯正は、患者の審美的要求に応えるための有効な治療法として注目されています。裏側矯正においては、アンカレッジ制御、間接接着、およびバイオメカニクスがラビアル技術とは異なります。この研究では、裏側矯正による叢生の治療法について具体的に言及していませんが、歯列不正咬合の治療において広く用いられていることを示しています。【Shetty, Shetty, & Sarje, 2020】
2. 叢生における顎骨の変化
叢生の治療においては、顎骨の変化も重要な要素です。非抜歯による叢生の矯正治療後に、下顎切歯の歯槽骨と歯間骨隔壁の変化をコーンビームCTで評価した研究では、治療によって切歯の顔側の歯槽骨隆起と歯間骨隔壁の高さに有意な変化が観察されました。これは、叢生の治療において顎骨の変化を考慮することが重要であることを示しています。【Valerio, Cardoso, Araújo, Zenóbio, & Manzi, 2021】
これらの研究から、裏側矯正によって叢生の治療が可能であることが示唆されていますが、治療計画には顎骨の変化も含めて注意深く検討する必要があります。