歯科矯正全般

歯列矯正のアンカースクリューは痛いの?

歯列矯正のアンカースクリューは痛いの?

矯正治療で歯を強く引っ張るためにアンカースクリュー(ミニインプラント)という小さなネジを顎骨に埋め込んで固定源にする治療法があります。アンカースクリューとはどんなものか、痛くないのかご説明します。

アンカースクリューとは?

ミニスクリュー

アンカースクリューとは、歯列矯正の際に歯を動かすための固定源となる小さなネジのことです。通常、上顎や下顎の骨に直接埋め込み、それを支えにして歯を効率的に動かします。

アンカースクリューの直径は僅か1.5mm程度で、長さも6mm~8mm程度と、ごく小さなものです。主にチタン合金で作られており、その生体適合性の高さからアレルギー反応のリスクが非常に低いです。歯列矯正においては、これらのスクリューを歯茎の骨に埋め込み、ワイヤーで歯とスクリューを繋いで歯を動かす際の固定点として活用します。

アンカースクリューを使う目的

  • 従来の方法では難しかった大きな歯の移動を可能にする
  • 矯正治療の期間を短縮できる
  • ゴムかけやヘッドギアなしで強い固定源を得られる

「矯正用インプラント」とも呼ばれますが、一般的な歯科インプラントとは異なり、永久的なものではなく、矯正が終われば取り外します。

 

アンカースクリューは痛いの?

埋め込み自体は、局所麻酔を行うため、ほとんど痛みを感じません。処置は通常数分で完了し、患者さんは快適に過ごせます。しかし、痛みの経験には個人差があり、以下のような段階で痛みを感じる可能性があります。

1. 麻酔注射時

  • 局所麻酔をするため、施術中はほぼ無痛です。
  • 麻酔の針を刺すときにチクッとした痛みがありますが、麻酔が効けばその後は痛みを感じません。
  • スクリューを埋め込む作業自体は数分程度で終了します。
  • 麻酔液が広がる際に、軽い圧迫感や違和感を覚える方もいます。

2. 麻酔が切れた時

  • 麻酔が切れた後、鈍い痛みや違和感が1〜2日続くことがあります。
  • ただし、親知らずの抜歯のような強い痛みではなく、軽い筋肉痛のような感覚と表現されることが多いです。
  • 痛み止め(鎮痛剤)を服用すれば、ほとんど気にならない程度です。

3. 処置後数日間

  • 埋め込み部位に軽い腫れや痛みが続くことがあります。
  • 通常3〜5日程度で徐々に軽減していきます。
  • 痛みの程度は個人差が大きく、ほとんど痛みを感じない方もいれば、1週間程度違和感が続く方もいます。

4. 矯正力をかけ始めたとき

  • アンカースクリューを使って実際に歯を動かし始めると、軽度の痛みや圧迫感を感じることがあります。
  • この痛みは通常、歯の移動に伴うもので、数日で慣れてきます。

5. 日常生活での注意点

  • アンカースクリューの周辺の歯茎を強く刺激すると、一時的に痛みを感じることがあります。
  • 硬い食べ物を噛んだり、舌で触ったりすると不快感を覚える可能性があります。

6. スクリュー除去時

  • 矯正治療終了後のスクリュー除去も、通常は局所麻酔下で行われるため、ほとんど痛みはありません。
  • 抜いた後は歯茎に小さな穴が残りますが、その穴は数日で塞がります。
  • 除去後は軽度の不快感が残ることがありますが、すぐに回復します。

アンカースクリューの術後に気をつけること

1. 術後の飲食に注意

手術当日は刺激の強い食べ物を避ける

  • 辛いもの、熱いもの、硬いものはNG
  • 柔らかい食事(おかゆ、ヨーグルト、スープなど)が◎

アルコールや喫煙は控える

  • 炎症や感染のリスクが高まるため、最低でも2〜3日は避けるのがベター

2. 口腔内の清潔を保つ

歯磨きはやさしく行う

  • スクリュー周囲を刺激しないよう、やわらかい歯ブラシで磨く

殺菌作用のあるうがい薬を使う

  • イソジンなどの抗菌うがい薬でケアすると、感染予防に効果的

3. スクリューへの過度な力をかけない

頬杖をつかない、歯ぎしりに注意

  • 強い力がかかるとスクリューが緩んだり、脱落することがあります。
  • もしスクリューが外れた場合は、すぐに歯科医院で相談しましょう。

アンカースクリュー(ミニインプラント)が痛む場合の対策

アンカースクリューは普通はそれほど痛むものではありませんが、万が一痛む場合は以下を参考にしてください。

  • 2〜3日以上、強い痛みが続く
  • 腫れや膿が出る
  • スクリューがぐらつく、抜けそう
  • 口内炎ができて痛む

1. 口腔内の清潔を保つ

痛みの原因が感染によるものである場合、お口の中の清潔を保つことが重要です。正しい方法での歯磨きとデンタルフロスの使用、そして必要に応じてマウスウォッシュなども使用してください。

2. 市販の鎮痛薬を使用する

痛みが軽度であれば、市販の鎮痛薬を一時的に使用することができます。ただし、長期間の使用は避け、使用前には必ず医師または歯科医に相談してください。

3. 冷たいものを口に含む

痛みや腫れを和らげるために、冷たい水や氷を口に含むことも効果的です。冷却することで炎症を抑えることができます。

4. 柔らかい食べ物を選ぶ

硬い食べ物や粘着性のある食べ物は避け、柔らかい食べ物を摂取することで、アンカースクリューへの負担を減らすことができます。

5. 歯科医に相談する

痛みが続く場合や、痛みが激しい場合は、速やかに歯科医に相談してください。歯科医はスクリューの位置や状態を確認し、必要に応じて調整や治療を行います。

アンカースクリューが必要な症例とは?

アンカースクリューを用いるのは主に出っ歯、ガミースマイル、奥歯の移動が必要な場合です。

1. 重度の出っ歯

上顎前突(出っ歯)奥歯を動かさずに前歯だけを後方に動かすことができますので、抜歯矯正の場合は抜歯で出来たスペースの殆どを、出っ歯を後ろに動かすために使えます。そのため重度の出っ歯でも治療が可能になります。

2. ガミースマイル

ガミースマイルを治療するには、上の前歯を歯茎の方向に引き上げ(圧下)なければなりませんが、従来の矯正治療では上方向に力を加えるのが大変難しく、ガミースマイルは通常の矯正治療ではなく外科手術の適用となっていました。

しかしアンカースクリューを使用することで、歯に上下左右全ての方向への力を加えることが可能になり、矯正でガミースマイルを治療出来るようになりました。

3. 奥歯の移動

アンカースクリューを使用することで、奥歯を後方に移動させることが可能になります。

奥歯を後方に移動させるとその分スペースが出来ますので、そのスペースを利用して出っ歯や受け口を後ろに下げることが出来ます。従来の方法では小臼歯を抜歯してスペースを作っていましたが、アンカースクリューを使用することで小臼歯の抜歯が必要なくなるというメリットがあります。

アンカースクリューにトラブルが起こったときは?

トラブル 対策
スクリューの緩み すぐに歯科医に相談し、再調整または交換を行う。
痛みや腫れ 痛み止めを使用し、数日続く場合は歯科医に連絡する。
感染の兆候 抗菌マウスウォッシュを使用し、即座に歯科医に相談する。

まとめ

アンカースクリューは、従来の矯正治療では困難だった症例にも対応可能で効果的に歯を動かすための治療法です。

装着時は局所麻酔をするため無痛

術後の痛みは軽度で、痛み止めで対応可能
口腔内を清潔に保ち、スクリューに過度な力をかけないことが大切
異常があればすぐに歯科医院へ相談

治療の期間の短縮、抜歯を回避できる可能性、周囲の歯への影響の少なさなどのメリットを考慮してアンカースクリューを使用した矯正を検討している方は、まず専門の歯科医師との十分な相談を行い、最適な治療計画を立てましょう。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。矯正歯科の認定多数。日本抗加齢医学会 認定医。

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