部分矯正

全体矯正と部分矯正の違いは?

全体矯正と部分矯正の違いは?

大阪矯正歯科グループ 歯科医師 松本 正洋

歯列矯正には、歯全体に装置をつける「全体矯正」と、前歯などの一部の歯だけ(前歯6~8本など)に装置をつける「部分矯正」があります。二つの方法の違いについてご説明します。

全体矯正とは?歯並び全体を整える治療

全体矯正とは、上下の歯列全体を対象に歯並びや噛み合わせを改善する矯正治療です。特に、不正咬合(かみ合わせの異常)がある場合には、全体矯正が必要になることが多いです。

全体矯正の特徴

適応範囲が広い

出っ歯、受け口、開咬、叢生(ガタガタの歯並び)など、幅広い症例に対応可能。

矯正方法の選択肢が多い

  • ワイヤー矯正(表側・裏側)
  • マウスピース矯正(インビザラインなど)

治療期間が長め

一般的に1年半~3年ほどかかる。

費用は比較的高額

80万~150万円ほどが相場。

全体矯正のメリット

  1. 理想的な歯並びと噛み合わせが得られる
  2. 長期的な口腔環境の改善が期待できる
  3. 矯正後の後戻りが少ない

全体矯正のデメリット

  1. 治療期間が長く、負担が大きい
  2. 部分矯正と比べて費用が高い
  3. 装置による見た目の影響が気になる場合がある

部分矯正とは?前歯だけなど特定の部分を整える治療

部分矯正は、歯並びの一部(前歯など)を整える矯正治療です。「前歯のすき間が気になる」「ちょっとした歯並びのズレを直したい」という方に向いています。

部分矯正の特徴

  • 治療範囲が限定的・・主に前歯の歯並び改善に適用。
  • 短期間で治療が可能・・3ヶ月~1年程度で完了することが多い。
  • 費用が比較的安い・・10万~50万円ほどが相場。

部分矯正のメリット

  1. 治療期間が短く、負担が少ない
  2. 費用を抑えられる
  3. 装置の目立ちにくい方法も選べる

部分矯正のデメリット

  1. 適用できる症例が限られる(かみ合わせのズレがある場合は難しい)
  2. 後戻りしやすい場合がある
  3. 見た目の改善が中心で、噛み合わせの調整は難しい

全体矯正と部分矯正のアプローチの違い

共に歯並びを整える治療の2つの異なるアプローチです。それぞれの特徴は以下の通りです。

1. 全体矯正(全顎矯正)

  • 目的・・上顎と下顎のすべての歯を対象にします。この方法は、咬み合わせの問題、顎の位置の異常、歯の並びの広範な問題に対処するのに適しています。
  • 方法・・ブラケットやワイヤー、時には顎の成長を調整するための追加的な装置を使用します。
  • 対象者・・重度の歯並びや咬み合わせの問題がある人に推奨されます。

2. 部分矯正

  • 目的・・特定の歯または歯のグループに焦点を当てます。これは、歯列の一部分のみに問題がある場合に適しています。
  • 方法・・局所的なブラケットやリテーナー、アライナーなどを使用して特定の歯を動かします。
  • 対象者・・部分的な歯並びの問題や軽度の咬み合わせの問題を持つ人に適しています。

どちらの方法を選択するかは、患者さんのお口の状態や目的によって異なります。部分的な治療が可能かの診断を受けるためには、歯科医師との相談が必要です。

全体矯正と部分矯正の適応症の違い

部分矯正と全顎矯正の違い全体矯正では全ての歯に矯正装置をつけ、全ての歯を動かすことが出来ます。骨格が原因の不正咬合だけは外科矯正が推奨されますが、それ以外は殆ど全て可能で、重度の出っ歯や受け口、叢生の場合も出来ます。※全体矯正では抜歯が必要になるケースが多いです。

一方、部分矯正は、主に前歯8本程度にしか装置をつけませんので、ごく一部の歯を動かすことしか出来ません。また、部分矯正では歯を大きく動かすことも出来ませんので、軽度の不正咬合に限られます。

部分矯正では治らない例

全体矯正と部分矯正の適応症例

適応症例 全体矯正 部分矯正
重度の不正咬合
軽度の不正咬合
顎の位置異常 ×

部分矯正と全体矯正の方法、期間の違い

ワイヤー矯正・マウスピース部分矯正は主に前歯だけに装置をつけるため費用がおさえられ、歯を大きく動かしませんので、期間を短くすることが可能です。
全体矯正でも部分矯正でも歯に付ける装置は同じで、ワイヤー矯正、裏側矯正、マウスピースを選択することが出来ます。

部分矯正の方法、期間

ワイヤー矯正

ブラケットを使ったワイヤー矯正や裏側矯正で部分矯正をする場合は、3ヶ月~1年位の期間となり、価格も全体矯正の半分~3分の1程度で済む場合が多いです。

マウスピース矯正

マウスピースを使って部分矯正を行う場合、ブラケットでの部分矯正と同じく3ヶ月~1年位の期間となります。マウスピース矯正の場合の費用は全体矯正の場合の半額程度になる場合が多いです。

全体矯正の方法、期間

ワイヤー矯正

ブラケットを使ったワイヤー矯正や裏側矯正で全体矯正をする場合は、抜歯矯正のケースが主流になります。歯の重なりが大きい場合や、出っ歯や受け口の突出が大きい場合に、小臼歯を抜歯して歯を動かすスペースを作ります。

小臼歯を抜いたスペースを使って歯を大きく動かすため、全体矯正では部分矯正よりも期間が長くかかり、2年半程度かかる場合が多いです。

マウスピース矯正

マウスピースを使った全体矯正では、抜歯矯正と非抜歯矯正でかなり期間が多少変わります。マウスピース矯正ではマウスピース1枚あたり0.25mmしか歯を動かせませんので、歯を大きく動かす場合はマウスピースの枚数が多くなり、期間も長くなります。

非抜歯で行う場合は、奥歯を後退させたり、歯列を少し拡大したりする動きをさせます。

治療期間は2~3年程度が一般的です。

全体矯正と部分矯正、どちらを選ぶべき?

「全体矯正と部分矯正、どちらがいいの?」と迷われる方のために、それぞれの適したケースをまとめました。

全体矯正が向いている人

  • 噛み合わせが悪い
  • 出っ歯、受け口、開咬などの問題がある
  • 歯並び全体を整えたい
  • 長期的な口腔環境を良くしたい

部分矯正が向いている人

  • 前歯の軽度なズレを直したい
  • 短期間で歯並びを整えたい
  • 費用を抑えて矯正をしたい
  • 噛み合わせに大きな問題がない

どうしても部分矯正でしたいけど出来ないこともある?その理由とは?

「前歯のちょっとしたズレだけ直したいんだけど、全体矯正じゃないとダメなの?」
そんなふうに思われている方も多いかもしれません。確かに、部分矯正は短期間で費用を抑えながら歯並びを整えられる魅力的な方法です。でも、どうしても部分矯正では対応できないケースもあります。では、どんな場合に部分矯正が難しいのでしょうか?

部分矯正が出来ないケースとは?

部分矯正は、「前歯の軽いズレ」など、見た目を少し整える目的には適しています。しかし、歯並び全体のバランスや噛み合わせが関係してくる場合には、部分矯正だけでは対応できません。

1. 噛み合わせに問題がある

「前歯だけ動かせばOKでしょ?」と思われるかもしれませんが、実はそう簡単ではありません。噛み合わせは歯全体のバランスで成り立っているため、前歯だけを動かすことで逆にズレが生じてしまうことがあるのです。

部分矯正が難しい噛み合わせの例
  • 出っ歯(上の歯が前に出ている)
  • 受け口(下の歯が前に出ている)
  • 開咬(奥歯は噛んでいるのに前歯が噛み合わない)
  • クロスバイト(歯の上下が交差している)

このような場合、部分矯正で前歯だけを動かしてしまうと、さらに噛み合わせが悪くなり、しっかり噛めなくなってしまう可能性があります。

2. 歯並び全体のバランスが崩れる可能性がある

歯は1本1本が単独で動くわけではなく、全体でバランスを取りながら並んでいるものです。そのため、一部だけ動かしてしまうと、歯列全体のバランスが崩れることがあります。

例えばこんなケースでは要注意!
  • 「前歯のすき間を閉じたい」 → 奥歯のバランスが崩れる
  • 「前歯を内側に引っ込めたい」 → 奥歯がずれてしまう
  • 「1本だけ前に出ているのを揃えたい」 → 周囲の歯の位置が変わる

こうしたケースでは、部分矯正だけでなく、奥歯の位置も含めて全体的に調整する必要があります。

3. 奥歯の位置を変える必要がある

矯正治療では、基本的に歯を動かすための支え(固定源)が必要です。部分矯正では、基本的に「動かさない歯」を固定源にして前歯だけを動かすことになります。しかし、奥歯の位置に問題があると、それが難しくなります。

奥歯の位置が影響する例
  • 奥歯が傾いている
  • 奥歯の噛み合わせがずれている
  • 親知らずが影響している

このような場合、前歯だけを動かしても根本的な問題は解決できないため、部分矯正ではなく全体矯正が必要になることが多いです。

4. 歯を動かすスペースが足りない

歯並びがガタガタしている方は、「前歯の一部を動かせばスッキリするのでは?」と思われるかもしれません。しかし、実際には歯を動かすスペースが足りないことが多いんです。

スペース不足の例
  • もともと歯並びが狭い
  • 歯の大きさに対して顎が小さい
  • 親知らずの影響で押されている

このような場合、前歯だけを無理に動かしても収まりきらず、すぐに元に戻ってしまったり、かみ合わせが悪くなったりすることがあります。そのため、スペースを確保するために抜歯や全体的な歯列の調整が必要になることが多いです。

「部分矯正できるかどうか」まずは相談を!

「部分矯正は無理かな…」と思われた方も、ご安心くださいね!
実際に部分矯正ができるかどうかは、歯科医院でしっかり診断を受けることが大切です。

部分矯正ができるかのチェックポイント

  • 前歯の軽度なズレで、奥歯の位置に問題がない
  • 噛み合わせに大きなズレがない
  • 歯を動かすスペースが確保できる
  • 後戻りしにくい状態である

もし、部分矯正が難しい場合でも、負担を抑えながら治療を進める方法があるかもしれません。例えば、マウスピース矯正(インビザライン)なら、全体矯正であっても目立ちにくく、負担を減らせる可能性があります。

まとめ

歯のキャラクター

全体矯正と部分矯正では、適用症に違いがあり、それぞれの費用や治療期間も違います。

また、それぞれのメリット・デメリットがあります。

  • しっかりと噛み合わせまで改善したい場合は「全体矯正」
  • 軽度な歯並びの改善をしたい場合は「部分矯正」

「どちらを選ぶべきか分からない…」という方は、まずは歯科医院で相談してみるのがおすすめです。患者さんの歯並びや噛み合わせの状態を確認したうえで、最適な治療法を提案してもらえますよ。ご自身に合った矯正方法を見つけて、理想の歯並びを手に入れてくださいね。

どちらの方法になるかは担当医の診断によりますので、患者さんが「部分矯正希望」であったとしても、ご希望に添えるかどうかは、検査をしてみないとわかりません。そのため、歯並び治療をお考えの方は、まず歯科医院で初診カウンセリングを受けてみられることをお勧めします。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。矯正歯科の認定多数。日本抗加齢医学会 認定医。

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