ワイヤー矯正

矯正のパワーチェーンとは?どんな時に使うの?

矯正のパワーチェーンとは何?

大阪矯正歯科グループ 歯科医師 松本 正洋

歯並びの矯正治療の際に、パワーチェーンの使用は強い力で歯を引っ張って動かすために効果的です。パワーチェーンとはどんなものか、どんな時に使用するのかについてご説明します。

矯正治療ではどんな装置を歯につけるの?

歯科医院で矯正治療を行う成人の方は、歯並びの見た目を改善したい方が殆どです。歯並びが悪いと咀嚼や発音にも影響がありますが、それらの影響よりも見た目の改善を目的としてあげられる方が多いです。

悪い歯並びを不正咬合と呼びますが、出っ歯やガタガタなどの不正咬合があると、歯と歯の間をきれいに掃除することが出来ません。そのため虫歯や歯周病になりやすく、歯の寿命を短くしてしまうというリスクがあります。歯科矯正の器具を歯に装着することで、患者さんの目指すきれいな歯並びへと治療を行っていきます。成人の方への矯正器具で一般的なものは、下記の種類です。

ワイヤー矯正

唇側の歯の表面にブラケットと呼ばれる小さな装置を貼り付け、ブラケットにワイヤーを通して引っ張って歯を動かします。1ヶ月に1度くらいの頻度で来院していただき、ワイヤーの交換を行います。殆どの種類の不正咬合に適用出来、複雑な歯並びもきれいにすることが出来ます。

裏側矯正

歯の裏側にブラケットとワイヤーをつけて歯を動かします。1ヶ月に1度くらいの頻度で来院していただき、ワイヤーの交換を行います。歯の表側からは装置が殆ど見えませんので、他人から装置を見られたくない方にお勧めです。

マウスピース矯正

●インビザライン矯正/歯の表面にアタッチメントを付け、

透明の樹脂で出来たマウスピースを歯に装着し、1~2週間程度で新しいマウスピースと交換していくことで歯を動かす矯正治療法です。軽度の不正咬合に向いています。

参照先:厚生労働省

パワーチェーンはどんなもの

パワーチェーン(エラストメトリックチェーン)は、矯正治療の方が全員使用するものではありません。歯を大きく動かす必要がある時など、ワイヤー矯正で矯正器具のみの力が足りない場合に、追加でパワーチェーンを矯正装置につけて歯を引っ張ります。

パワーチェーンとは、熱で様々な形状に変形できるポリウレタン弾性糸というゴムを素材とした輪が繋がっている形状をした鎖です。ラテックスアレルギーの方にも対応できるゴムです。

パワーチェーンの用途や原理

パワーチェーンは、抜歯したスペースを閉じるためや、歯を動かす方向へ大きな力で引っ張る用途に適しています。おおよそ100g程度の力で持続的に歯を動かすことが出来、1週間経過するとゴムが劣化しておおよそ半分の力になります。約3週間経過するとゴムが伸びきって歯に力がかからなくなります。

強く引っ張る時と弱く引っ張る時が交互にあるのはなぜ?

パワーチェーンをかけて約1週間は強い力で引っ張ることが出来、歯冠と呼ばれる歯茎の上に露出している部分が動きます。その後パワーチェーンの力が少しずつ弱くなると、歯茎の中に埋まっている歯の根(歯根)が動きます。

パワーチェーンの注意点

パワーチェーンはゴム製ですので約2週間くらいが交換の目安です。途中でパワーチェーンが切れたり外れてしまった方は、担当医にご連絡ください。また、ゴムで作製されているため、色素の強いカレーなどを食べると、ゴムが黄色く着色します。交換したばかりの時期は、着色しやすい食べ物を避けるようにしましょう。

矯正は力で圧迫すれば良いわけではない?

歯の移動に必要な力を至適矯正力と呼びます。矯正は強い力で引っ張れば歯が早く動くというわけではありません。

強い力で引っ張り過ぎた場合

  1. 歯は圧迫側に過度の矯正力がかかると、周囲の血管が押しつぶされ、歯根膜が壊死します。
  2. 壊死組織を別の歯根膜が吸収することを穿下性(せんかせい)吸収と呼びます。
  3. 穿下性吸収の場合、歯が動かない停滞期と歯が動く時期が交互に起きるため、強い力をかけすぎると、歯がなかなか動かず、治療期間が長くなってしまいます。

適切な力で引っ張った場合

  1. 歯の移動に加えられる矯正力が適切な弱い力であれば、力が加わったと情報伝達が起き、破骨細胞が出現し、周囲の骨を吸収します
  2. 歯の動くスペースができたところに歯が動き、歯の動いた後には造骨細胞が働き、新たな骨を作ります。
  3. これを直接吸収と呼びますが、連続して起きるため、矯正治療で歯はスムーズに動きます。

こんな時にパワーチェーンを使用する

パワーチェーンを使う歯並びで一番わかりやすいのが、糸切り歯(犬歯)を後ろに引っ込める八重歯のケースです。八重歯は犬歯が歯列から前に飛び出てしまっている状態で、歯並びを整えるためには抜歯が必要になるため、全顎矯正に該当します。

  1. 抜歯後に空いたスペースへ突出した犬歯を移動させますが、その際の力が必要となります。
  2. 大臼歯(奥歯)のブラケットにパワーチェーンをかけてそこを固定源にすると、ゴム製のチェーンが元の形に戻ろうとします。
  3. その際に犬歯を後方に動かすことが可能となります。
  4. ただ、材質的な劣化をするので、パワーチェーンは定期的な交換が必要です。

パワーチェーンの数が違っても問題ない?

パワーチェーンの強さにはおおよそ5種類あり、歯の動き方によって、ドクターが輪の玉数を決めていきます。患者さんの歯の動き方で決めているため、右側と左側の玉数が違っても心配ありません。

矯正のパワーチェーンとはに関するQ&A

矯正歯科のパワーチェーンとは何ですか?

パワーチェーンは、エラストメトリックチェーンとも呼ばれ、歯の移動に使用されるゴム製の矯正器具です。歯を動かす力を提供し、主に抜歯スペースの閉じるために使われます。パワーチェーンはゴム製で熱で形状を変えることができ、歯科矯正治療において一部の患者に提案されます。

パワーチェーンはどのような場合に使用されますか?

パワーチェーンは特に八重歯の矯正に使用されます。これは、犬歯を後ろに引っ込めるための力が必要な全顎矯正のケースで使われます。ゴム製のチェーンは、犬歯を後方に動かす際に力を提供し、定期的な交換が必要です。

パワーチェーンの玉数は患者ごとに異なりますか?

はい、パワーチェーンの玉数は患者さんの歯の動きによって異なります。歯の動き方に応じて、医師が適切な玉数を決定し、それに基づいて治療を進めます。したがって、右側と左側の玉数が異なっても問題ありません。

まとめ

矯正で歯列を動かす治療を動的治療と言い、正しく動いた歯を後戻りしないようにリテーナーで保定する治療を静的治療と呼びます。いずれの治療もきちんと器具をつけて行うことで、歯並びが審美的にも機能的にも改善します。正しい噛み合わせになれば、筋肉の左右差もなくなります。歯並びや噛みづらさが気になっているという方は、一度矯正歯科が行っているカウンセリング(当院は無料で予約制)でお悩みや症状があればお気軽にご相談ください。

パワーチェーンは、矯正治療において使用される弾性チェーンの一種で、歯列の移動や空隙の閉鎖に用いられます。以下は、パワーチェーンに関する研究の要約です。

1. パワーチェーンの表面処理による物理的性質と生体適合性の改善

Chengらによる2017年の研究では、パワーチェーンの表面処理によって物理的性質と生体適合性が向上することが示されています。ナノインプリント技術を用いた表面処理により、パワーチェーンの水吸収率を減少させ、色の付着を抑制しています。これにより、パワーチェーンの耐久性と美観が改善されます[Cheng et al., 2017]

2. 異なるパワーチェーンの力の減衰に関する比較

Foudaによる2017年の研究では、異なるタイプのパワーチェーンが時間の経過とともに力を失うことが示されています。この研究は、矯正治療中の歯の移動に必要な適切な力を選択する際に、パワーチェーンのタイプによる力の減衰を考慮することの重要性を示しています[Fouda, 2017]

これらの研究は、パワーチェーンが矯正治療において持続的な力を提供し、特に表面処理によってその性能が向上することを示しています。しかし、使用するパワーチェーンの種類によって力の減衰が異なるため、矯正治療の計画においてこれらの特性を考慮することが重要です。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。矯正歯科の認定多数。日本抗加齢医学会 認定医。

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