矯正治療をする際に、IPR(ディスキング、ストリッピング、スライス)といって歯の両端を削る処置を行う場合があります。裏側矯正での治療の際にIPRを行うかどうかご説明します。
裏側矯正でもIPRをするの?
歯の裏側にワイヤーとブラケットを装着するのが裏側矯正です。矯正歯科治療のためには、歯を動かして並べるためのスペースが必要ですので、裏側矯正装置を使って歯並びを整える際にも、IPRで隙間を作っていく場合があります。
ただし、IPRによるスペースは小臼歯の抜歯によるスペースの確保と比べると、かなり小さいため、軽度の不正咬合の場合のみ行われます。
IPRだけでは歯を並べきれない場合は、抜歯による矯正を行います。
IPRとは?
IPRは、ディスキング、ストリッピング、スライスなどとも呼ばれ、矯正治療で歯の側面をヤスリやバーを使って削り取る処置のことで、非抜歯矯正の場合に行われます。
削る部分は歯のエナメル質のみで、1ヶ所につき0.25mm以内の範囲で削ります。歯の両側面を削ると、歯1本あたり0.5mm以内の範囲でスペースが出来ます。
エナメル質のみを削りますので、痛みはなく、削った後虫歯になりやすいといったこともありません。
IPRの削り方
コントラタービンで削る
やすりで削る
IPRの目的とは?
- 歯を動かすためのスペースを作るため
- ブラックトライアングルを改善するため
- 歯列を安定させるため
- 上下の歯のアンバランスの解消のため
1.歯を動かすためのスペースを作るため
矯正治療で歯並びのガタガタを解消するには、歯を動かしていくためのスペース(隙間)が必要です。スペースを作る方法の一つがIPRです。
2.ブラックトライアングルを改善するため
大人の矯正で前歯のガタガタをきれいに並べた時に、歯と歯の間の歯茎に退縮が起こり、三角形の黒い隙間が出来てしまうことがあります。これをブラックトライアングルと呼びます。
ブラックトライアングルを改善するために、歯と歯の間を少し削って歯の形を四角くすることで、ブラックトライアングルの部分を小さくしたり、白いコンポジットレジンレジン(歯科用プラスチック)で歯の形を整えることがあります。
3.歯列を安定させるため
歯と歯は一列に並んで互いに押し合って歯列を形成しています。歯と歯が接する部分を削って、接触している部分の面積を増やすことで、歯がしっかりと支え合い、歯列を安定させることが出来ます。
4.上下の歯のアンバランスの解消のため
上の前歯がかなり大きく、下の前歯が小さい場合に、歯の大きさのバランスを取るために歯と歯の間を少しずつ削って大きさの調整を行います。
IPRの処置を受けたあとの注意点
IPR(ディスキング、スライス)の処置で歯の両端を削った後の注意点をご説明します。
- 削った部分がしみることがある
- 食べた物が歯と歯の間に詰まりやすい
1. 削った部分がしみることがある
IPRで削るのは歯のエナメル質だけで、通常痛みが出ることはありません。しかし、何らかの原因でエナメル質が薄くなっている場合にIPRを行うと、削った部分に知覚過敏のような痛みが出る場合があります。
痛みが出た場合は歯科医院にご連絡ください。削った部分をコーティングするなどの処置を行う場合があります。
2. 食べた物が歯と歯の間に詰まりやすい
IPRを行うと、歯と歯の間に僅かに隙間が出来ます。矯正治療が進んでいくと隙間はやがてぴったり閉じますが、隙間が空いている状態では、食べ物が挟まりやすくなります。
特に挟まりやすいのは肉、魚、葉物野菜、海苔などです。これらは歯ブラシで落としにくいため、デンタルフロスを使用しましょう。フロスを歯と歯の間に通すと、挟まった食べ物をフロスで絡め取ることが出来ます。
汚れがたまったままにしておくと、その部分が虫歯になったり、歯茎に炎症が起こる場合がありますので、歯間は必ずきれいに清掃するようにしましょう。
裏側矯正でのIPRに関するQ&A
裏側矯正においてIPRは、主に以下の目的で行われます。歯を動かすためのスペースを作る、ブラックトライアングルを改善する、歯列を安定させる、上下の歯の大きさのアンバランスを調整するためです。
裏側矯正でのIPRは、歯の裏側にワイヤーとブラケットを装着した状態で、歯の側面をヤスリやバーを使って削り取る処置です。これにより、歯の間にスペースを作ります。
IPRの処置後に注意が必要な点は、削った部分が知覚過敏を引き起こす場合があることや、歯と歯の間に隙間ができるため、食べ物が挟まりやすくなることです。知覚過敏がある場合は歯科医院に相談し、隙間の清掃にはデンタルフロスを使用することが重要です。
まとめ
歯を削ると痛いというイメージがありますが、IPRではエナメル質のみを削りますので、痛みはありません。麻酔も必要ありません。裏側矯正においても、軽度の不正咬合の場合には抜歯せずにIPRのみで治療を行います。IPRでスペースを作るか、抜歯が必要かについては矯正担当医の診断で決まります。
裏側矯正(リンガルオーソドンティクス)におけるIPR(Interproximal Reduction, 歯間削減)の使用に関しては、いくつかの研究が参考になります。
1. リンガルブレースとIPRの使用
ある症例報告では、骨格的な顎顔面III級の患者に対して、リンガルブレースを用いた治療で上顎前歯の軸の傾斜を減少させることに成功しました。このケースでは、患者は歯の抜歯とIPRを拒否しました。このように、IPRなしで上顎前歯の傾斜を調整することが可能であることが示されています。【Nguyen, Thai Lien, & Nga, 2019】
2. リンガルブレースとIPRの併用
別の研究では、骨格的な顎顔面III級の成人患者にリンガルブレースとIPRを併用した治療が行われました。このケースでは、IPRが混雑を解消するために用いられました。【Gracco, Finotti, Bruno, & de Stefani, 2018】
これらの研究から、裏側矯正においてIPRの使用はケースによって異なり、必要に応じて選択されることが理解されます。一部のケースではIPRなしで治療が行われることもありますが、他のケースではIPRが有効に用いられています。