前歯の歯並びの気になるところを部分的に治すのが部分矯正ですが、実際にどのような歯並びの人が部分矯正に向いているのかについてご説明します。
部分矯正が向いているのはどんな不正咬合?
部分矯正では基本的に前歯の2~8本の歯並びを治します。上下の全体の歯を矯正するわけではなく、見た目の気になる部分だけを治したい方向けの治療法といえます。
部分矯正で歯並びを治せるのは、前歯に軽いがたつきや重なりやズレ、隙間があるなどの軽度の不正咬合です。
逆に部分矯正で治せないのは、重度の出っ歯、歯列から大きく飛び出した八重歯、骨格性の受け口などです。
前歯の矯正は、歯全体を動かす場合よりも期間や費用が少なく済むのが特色です。部分的な治療だけでは治せない歯並びの場合は、歯全体を動かして不正咬合を改善させる必要があります。
1. 軽い出っ歯の方
前歯の向きを変えただけである程度歯の突出が治る場合は、部分矯正で治療が可能です。
口ゴボと呼ばれる、骨格から前に出て口元全体が前に出ている方は、部分的に歯を動かすだけで改善させることは難しく、全体矯正か、または外科矯正の適用となります。
2. 軽いガタガタの方
前歯と前歯が軽く重なっている場合は、部分矯正で治療可能です。歯の重なりが大きくて二重に生えている場合は歯を大きく動かす必要があり、部分的に治すのは難しくなります。
八重歯は歯の重なりが大きいため、抜歯をして全体矯正が必要です。
3. 軽い受け口(反対咬合)の方
軽い反対咬合の方で、下の前歯の向きを変えるだけで反対咬合が治る方は、部分矯正でも治療が可能です。
しかし、骨格性の受け口で、下顎の骨の過成長が起こっている方は、外科矯正の適用となります。
4. すきっ歯の方
前歯と前歯の間に隙間がある不正咬合をすきっ歯(空隙歯列)といいますが、部分矯正で治療可能な場合が多いです。
先天的に歯の本数が足りなくて隙間が空いている方の場合は、どの程度の隙間が空いているかと、隙間のある個所の数によって部分的な治療で可能かどうかが決まります。
前歯のほんの少しのすきっ歯の場合は矯正治療以外に、レジンで歯と歯の間を埋めたり、セラミックの被せ物で歯の形を変えるなどの治療も行うことが出来ます。
5. 前歯が1本だけ捻じれて生えている方
前歯が1本だけ傾いたり捻じれたりしていて、ねじれの程度が軽度の場合は、歯を大きく動かさなくても治ることが多いため、部分矯正で治療できる可能性が高いです。
大きくねじれている歯は、歯を真っ直ぐに動かすためのスペースがどれくらい必要かで、部分的な治療で可能かどうかが決まります。また、歯が小さい場合は角度を変えることが難しいため、全体矯正になる場合があります。
6. 一度矯正治療をしたが後戻りが起こっている方
過去に一度矯正をしてきれいな歯並びになったが、何年かして歯並びが少しずつ乱れてきた方は、後戻りの程度が少なければ部分矯正での治療が可能です。
歯列の後戻りが起こる原因は、以下のようなものです。
- 歯並びを悪くする癖が残っている(舌で前歯の裏を押す、爪を噛むなど)
- リテーナー(保定装置)をあまり使っていなかった
- 親知らずが出てきて歯を押しているために歯列が乱れた
- 全回の矯正治療が不完全だった
後戻りを起こした方は、また一から全体矯正をするケースは少なく、殆どの場合、部分矯正で後戻りして気になっている部分だけを治すことが可能です。
ただ、親知らずが原因の場合は、親知らずの抜歯と全体矯正が必要になる場合がありますので、担当医にご確認ください。
7. 奥歯の噛み合わせに問題がなく、前歯の見た目だけの治療をしたい方
部分矯正は前歯の歯並びのみの治療になりますので、奥歯の噛み合わせを改善させることが出来ません。奥歯の噛み合わせが悪い方は、全体矯正を行う必要があります。
部分矯正できないのはどんな歯並び?
重なりの大きい叢生や大きく突出した出っ歯や受け口の場合は、部分矯正だけでは治らないことがあります。特に骨格的な原因のある出っ歯や受け口の場合は、外科手術を行う外科矯正でないと口元の突出感が減りません。
部分矯正は歯の側面を少し削ることでスペースを作り、ガタガタの歯や軽度の出っ歯を治療します。
部分矯正で歯を動かすスペースを作るためには?
歯列矯正で歯を動かすためには、歯が動くためのスペースが必要です。全体矯正では、小臼歯を抜歯することでスペースを作る場合が多いのですが、前歯だけを治す部分矯正では、一般的に抜歯は行いませんので、前歯の側面を僅かに削ってスペースを作ります。これをディスキング(IPR)といいます。
部分矯正では、前歯だけを少しだけ移動させて歯列を治せる程度の軽い不正咬合しか治すことが出来ません。それは、歯を動かすためのスペースが僅かしか作れないという理由からでもあります。
歯を削るディスキング(IPR)は何ミリ削る?
非抜歯で矯正治療をおkなうためには、ディスキングで歯を削って歯を動かすためのスペースを作ります。歯を削るのは、歯の表面のエナメル質の部分のみです。エナメル質は2~3ミリの厚みがあり、ディスキングで削るのは僅か0.25ミリまでです。
削る量が僅かですので、痛みはなく、歯へのダメージも小さく済みます。しかし、中にはエナメル質が薄くなっている方もおられますので、患者さんのエナメル質の状態によっては知覚過敏が起こる場合も稀にあります。IPR後に歯がしみる方は、担当医に相談しましょう。
前歯の部分矯正が向いている人に関するQ&A
部分矯正は主に前歯の軽度な不正咬合に向いています。具体的には、軽い出っ歯、軽いガタガタ(八重歯)、軽い受け口(反対咬合)、すきっ歯、前歯が1本だけ傾いている場合などが該当します。
部分矯正では治療できない不正咬合の例には、重なりの大きい叢生、大きく突出した出っ歯、骨格的な原因のある受け口があります。これらの症状に対しては、部分矯正だけではなく全体矯正や外科矯正が必要です。
部分矯正で歯を動かすためには、IPR(ディスキング)と呼ばれる方法を使用します。これは歯の側面から僅かなエナメル質を削り、そのスペースを利用して歯を移動させることです。通常、0.25ミリ以下のエナメル質を削りますので、痛みは起こりません。
まとめ
前歯の部分矯正に向いている歯並びについてご説明しました。部分矯正で治療可能な歯並びは、ごく軽度の不正咬合に限られます。それは、歯を動かすためのスペースを、抜歯ではなく前歯の側面を削ることで作るので、大きなスペースが得られないためです。部分矯正で治せれば、治療期間が短く費用も安いというメリットがあるのですが、部分矯正での治療が可能かどうかは矯正担当医の判断になります。
▼前歯の部分矯正についてはこちらで詳しく解説しています
前歯の部分矯正に適した人の歯並びに関する特定の論文は見つかりませんでしたが、前歯の矯正治療に関する研究を2件ご紹介します。
1. 前歯の複雑なリハビリテーション
– この研究では、前歯の欠損や位置異常のある歯列を持つ患者に対するプロスソドンティックス(補綴歯科学)の課題について論じています。理想的には、審美性と機能性のリハビリテーションのために矯正治療が最初の選択肢となりますが、矯正治療を望まない患者に対しては、固定部分義歯が唯一の他の選択肢となります。この記事では、そうしたケースの一部を紹介し、前歯の欠損や摩耗に対する固定部分義歯を使用したリハビリテーションについて説明しています。 (Ramchandani, Khandelwal, Punia, & Sharma, 2017)
2. 部分的な矯正治療と歯科プロスソドンティックスの統合
この研究では、前歯の部分矯正治療と歯科プロスソドンティックス(補綴)治療を組み合わせた治療法について説明しています。この方法は、前歯の不足や変形のある患者に適用され、部分的な固定装置と最小侵襲的な方法で問題に対処します。症例によっては、後方歯の咬合を改善するために矯正治療が行われますが、前歯に焦点を当てた部分矯正治療が重要な役割を果たします。 (Fioretto, Mantovani, & Fava, 2014)
これらの研究に基づくと、前歯の部分矯正が適した人の歯並びは、歯の欠損や位置異常のあるケースに限られることが分かります。部分矯正治療は、全体の咬合関係を保ちつつ、特定の前歯の問題に対処することができる最小侵襲的なアプローチです。