部分矯正

部分矯正で出っ歯を治したいのですが治りますか?

軽度の出っ歯は部分矯正で治る?

大阪矯正歯科グループ 歯科医師 松本 正洋

部分矯正で治せるのは、軽度の不正咬合のみです。では、出っ歯はどの程度なら軽度と診断されて部分矯正で治療が可能なのでしょうか。軽度の出っ歯と部分矯正についてご説明します。

部分矯正とは?

部分矯正とは、歯並び全体ではなく、一部の歯のみを動かして見た目や噛み合わせを改善する治療法です。特に前歯の軽度な不正咬合(歯並びの乱れ)を整えるのに適しており、

  • 治療期間が短い(約3か月〜1年)
  • 費用が全体矯正よりも抑えられる
  • ワイヤー矯正・マウスピース矯正のどちらでも可能

といったメリットがあります。

ただし、部分矯正には適応条件があり、すべての症例で適用できるわけではありません。

部分矯正で治る出っ歯とは?

結論からお伝えすると、「軽度の出っ歯なら部分矯正で改善できる場合もありますが、中度以上の場合は全体矯正が必要になることが多い」です。

部分矯正で出っ歯が治せるケースの一例として、

  • 前歯がわずかに前に傾いている場合
  • 歯を少しだけ後ろに引っ込めれば改善できる場合
  • 奥歯の噛み合わせが正常で、動かす必要がない場合

といった条件が挙げられます。

一方で、

  • 出っ歯の程度が大きい場合
  • 歯の並ぶスペースが足りない場合
  • 奥歯の噛み合わせも調整が必要な場合

は、部分矯正では対応が難しく、全体矯正が必要になることがほとんどです。

部分矯正では、主に前歯の気になる部分の歯並びだけを治しますので、軽度の出っ歯しか治すことが出来ません。

軽度の出っ歯とは、歯が原因の出っ歯で、奥歯の噛み合わせには問題がないケースで、抜歯をしなくても出っ歯になっている歯の傾斜を正常な状態に戻せる場合です。

抜歯せずに歯を動かすためのスペースを作るには、前歯の側面のエナメル質を0.25ミリから0.5ミリ程度削ります。歯の側面を削ったスペースのみで歯がきれいに並ぶ場合は、軽度の出っ歯と診断され、部分矯正での治療が可能です。

部分矯正では治らない出っ歯とは?

出っ歯(上顎前突)は、上の前歯が通常よりも前方に突出している状態を指します。この状態は、単に歯並びの問題だけでなく、顎の骨格に関連する問題を含むことが多いです。部分矯正では治らない出っ歯には、以下のような特徴や原因があります。

1. 骨格の問題

顎の骨格自体が前突している場合

出っ歯の根本的な原因が、上顎の骨が前方に出ていることである場合、単に前歯を後方に移動させる部分矯正では不十分です。このタイプの出っ歯は、顎の骨そのものに原因があるため、矯正歯科治療だけではなく、外科手術が必要になる場合があります。

2. 全体的な歯並びや噛み合わせの問題

全体的な歯並びや噛み合わせが悪い場合

出っ歯が全体的な歯並びの悪さや不正咬合に関連している場合、数本の歯を対象とした部分矯正では根本的な問題を解決できません。全体的な歯列矯正を通じて、歯の配列と噛み合わせのバランスを全体的に改善する必要があります。

3. 成長と発達の問題

成長段階での顎の発達が関係している場合

子供の場合、顎の成長と発達が出っ歯の原因になっていることがあります。このような場合、成長を促すか、あるいは抑制するための治療が必要になることがあり、単に歯を動かすだけの治療では十分ではありません。

4. 出っ歯の程度

重度の出っ歯の場合

出っ歯の程度が重い場合は、矯正治療に必要なスペースを確保するために多数の歯を動かす必要があります。部分矯正では、主に前歯の歯の移動に限定されるため、重度の出っ歯を効果的に治療することは出来ません。

5. 出っ歯の治療における部分矯正の限界

部分矯正は、比較的軽度な歯並びの問題や特定の歯の問題に対する小さな調整を目的としています。しかし、全体的な歯並びや噛み合わせの問題が原因で出っ歯が起こっている場合、一部の歯のみでなく、歯全体を動かすアプローチが必要になります。これには、全顎矯正や、場合によっては矯正外科手術を含む治療が含まれることがあります。

軽度の出っ歯を部分矯正で治すメリット

軽度の出っ歯なら部分矯正で治療が可能な場合があります。部分矯正は主に前歯の気になる部分の歯並びだけを治しますので、大きく歯を動かすことがありません。

そのため、歯全体を動かす全顎矯正と比べると、以下のようなメリットがあります。

  1. 痛みが少ない
  2. 治療期間が短い
  3. 治療費が安い

前歯がどの程度出ていたら出っ歯なの?

まず、出っ歯の基準についてご説明します。出っ歯のご相談で、歯科医師から見て出っ歯ではないのに、出っ歯だと悩んでおられる方が度々おられます。

正常な咬合では、上の前歯は下の前歯よりも少し前に出ています。大体2ミリ~3ミリは前に出ているのが普通で、4ミリ以上になると出っ歯(上顎前突)と診断されます。

また、前歯が大きいというお悩みもよくお聞きしますが、1番の歯は他の歯よりも大きいのが普通ですので、歯科医師から見ると、全く健康な歯列といえます。

 

オーバーバイトとオーバージェット

骨格性の出っ歯と歯が原因の出っ歯

出っ歯には、骨格が原因のものと、歯の生えている角度が原因のものがあり、治療の仕方が異なります。

骨格性の出っ歯

骨格が原因で出っ歯になっている場合は、上顎の骨が下顎の骨よりも前に出ていて、上顎の口元全体が前に出ています。

また、下顎の骨が後ろに下がっていて、相対的に出っ歯に見えるケースもあります。

これらの場合は顎骨へのアプローチが必要なため、セットバック手術などの外科手術が適応となります。

歯が原因の出っ歯

顎の骨の位置は正常で、上の前歯が前方に突き出た角度で生えている場合は、歯に原因がありますので、矯正装置を歯に付けて歯並びを治療していきます。

後戻りで出っ歯になった方も部分治療で治る

一度矯正治療を受けて、きれいな歯並びになった場合も、後戻りといって、元の不正咬合に戻ってしまう場合があります。具体的には、治療終了時にはきれいに並んでいた歯が、少し前に出て、元の出っ歯に戻ってきたというケースがあります。ガタガタの場合も同様です。

後戻りで軽度の出っ歯になってしまった方も、部分矯正で治療が可能です。

部分矯正のデメリットも知っておこう

部分矯正にはメリットがある一方で、以下のようなデメリットも考慮する必要があります。

  • 後戻りのリスクがある → 矯正後の保定装置(リテーナー)を適切に装着しないと、元に戻る可能性があります。
  • 奥歯の噛み合わせは変えられない → 噛み合わせ全体のバランスを考慮する必要があるため、適応症例が限られる。
  • 理想の仕上がりにならない可能性 → 歯列全体を動かすわけではないため、見た目の改善に限界がある場合も。

このようなリスクを理解した上で、「部分矯正で本当に満足できる仕上がりになるか」を歯科医と相談することが大切です。

まとめ

歯のキャラクター
  • 部分矯正で出っ歯を治せるのは軽度なケースのみ
  • 中度以上の出っ歯には全体矯正が必要になることが多い
  • 治療方法にはワイヤー矯正とマウスピース矯正がある
  • 奥歯の噛み合わせも考慮する必要があるため、適応できるか歯科医と相談することが重要

出っ歯であっても軽度で症状の軽い方は、部分矯正で治すことが可能です。しかし重度の出っ歯や、歯全体を動かさなければならない場合は、部分矯正では治療することが出来ません。

ご自身の歯並びが部分矯正で治療可能かどうかは、一度矯正のカウンセリングを受けて頂き、担当の歯科医師の診断が必要になります。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。矯正歯科の認定多数。日本抗加齢医学会 認定医。

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