
歯列矯正では、歯を動かすための隙間が必要になります。この隙間を作るために、主に5つの方法がありますが、部分矯正で使われるのは、前歯の両側をわずかに削るIPR(ディスキング、ストリッピング)というものです。
部分矯正で歯を削ることについてご説明します。
目次
部分矯正とは?
まず、部分矯正とは 歯並び全体ではなく、一部の歯並びを整える治療 です。
主に次のようなケースで行われます。
- 前歯のちょっとしたガタつきを治したい
- すきっ歯を改善したい
- 軽度の出っ歯や受け口を整えたい
全体矯正と比べて 治療期間が短く、費用も抑えられる のが大きなメリットです。しかし、その分 適応できる症例が限られる ため、歯科医としっかり相談することが大切ですね。
部分矯正は前歯2本~8本程度を動かして歯並びを整えます
部分矯正で歯並びを整えるために移動できるのは主に前歯2本~8本程度です。歯を動かすためのスペースは、IPRで歯を削って出来るスペースのみとなります。そのため、歯の重なりが大きい場合や、八重歯、重度の出っ歯、受け口などの治療は、部分矯正では行うことが出来ません。
部分矯正で歯を削ることがある理由
「部分矯正で歯を削ることがあるって、なんだか怖い…」と思われるかもしれませんね。でも、ご安心ください。
歯を削るといっても、削る量は ほんのわずか(0.2〜0.5mm程度) です。これは IPR(Interproximal Reduction) と呼ばれる処置で、主に次のような理由で行われます。
1. 歯のスペースを確保するため
歯を動かすには 隙間が必要 です。部分矯正では全体矯正のように抜歯でスペースを作ることが少ないため、 歯の側面をわずかに削ることでスペースを確保 します。
2. 歯並びをきれいに仕上げるため
歯を並べる際、わずかな形の違いが見た目に影響を与えることがあります。そこで、歯の形を少し整えることで より自然で美しい仕上がり にするのです。
3. 咬み合わせを調整するため
歯の形によっては、治療後にかみ合わせがズレることがあります。その場合、 噛み合わせを微調整するために歯を削る ことがあります。
部分矯正で歯を動かすための隙間を作る方法
歯列矯正で歯を動かす時には、歯を動かすためのスペースが必要です。
歯全体を動かす全顎矯正では、スペースを作るために抜歯をしたり、歯列を横に広げたり、歯全体を後ろに移動させたりします。
気になる前歯の歯並びを部分的に治す部分矯正では、歯の両端を削るIPR(ディスキング、スライス、ストリッピング)を行ってスペースを作るのが一般的です。
IPR(ディスキング、スライス、ストリッピング)のやり方
歯を動かすスペースを作るために、歯の両端を削ります。エナメル質の分厚さは個人差がありますが、1ミリ~1.5ミリほどあり、IPRで削るのはそのうちの0.25~0.5ミリ程度です。
エナメル質が薄くなりすぎると、知覚過敏を起こして痛みが起こりますが、IPRではごく薄く削るだけで、削りすぎることはありません。そのため痛みはありませんのでご安心ください。
部分矯正で歯を削るデメリットとは?
IPRは、抜歯せずにスペースを作り出す方法の一つで、前歯の側面をわずかに削ることで、歯を動かすためのスペースを作ります。部分矯正は手軽に思えるかもしれませんが、 いくつかのデメリット もあります。しっかり確認しておきましょう。
1. 適応できる症例が限られる
部分矯正は 軽度な歯並びの乱れ にしか対応できません。たとえば、 大きく歯を動かす必要があるケースや、噛み合わせの問題があるケース では、全体的な治療が必要になることもあります。
2. 後戻りしやすい
部分矯正は 抜歯をしないことが多く、歯を動かす量も少ない ため、 元の位置に戻ろうとする力が働きやすい のが特徴です。そのため、治療が完了して装置を外したあとは、リテーナー(保定装置)をしっかり装着しないと、後戻りしてしまう 可能性があります。
3. 歯を削るリスク
歯を削ることで エナメル質が薄くなる ため、 知覚過敏になりやすい というデメリットがあります。ただし、 適切な範囲で行えば問題は少なく、日常生活に支障が出ることはほとんどありません。
4. エナメル質の損失
IPRにより、歯の最も外側にある保護層であるエナメル質を削ります。エナメル質は自然に再生しないため、この処理をするとエナメル質が薄くなってしまいます。
5. 知覚過敏のリスク
エナメル質が薄くなると、知覚過敏が起こり、歯の神経が冷たいものや熱いものに対して敏感になることがあります。これは、IPR後の一時的な副作用であることが多いですが、中には長期間にわたって痛みを感じる人もいます。
6. 噛み合わせの変化
IPRによって歯の幅が変わると、歯の噛み合わせに影響を及ぼす可能性があります。
7. 見た目の影響
歯を削ることで歯の形が変わることがあり、これが見た目に影響を与える可能性があります。特に前歯の場合、微妙な形の変化でも印象の変化が生まれることがあり、審美的な結果に影響を及ぼす場合があります。
8. 削り過ぎのリスク
不適切なIPRは、必要以上に多くのエナメル質を削除するリスクを伴います。これにより、歯が弱くなり、将来的な歯の健康を損なう原因となる可能性があります。
IPRは有効な手段であることが多いものの、潜在的なリスクやデメリットを十分に理解し、担当医とよく相談した上で決定することが重要です。
部分矯正はこんな方におすすめ
部分矯正は すべての方に適しているわけではありません。以下のような方には特におすすめです。
- 軽度な前歯の乱れを治したい
- 治療期間を短くしたい(数ヶ月〜1年程度)
- 矯正費用を抑えたい(全体矯正より安価)
逆に、 噛み合わせの問題がある方、大きく歯を動かしたい方 には、全体矯正のほうが適していることが多いです。
部分矯正で歯を削るデメリットについての質問
歯を削ったら痛くないの?
IPRでは1.5ミリの厚さのエナメル質の内の0.25ミリ~0.5ミリしか歯を削りませんので、削る時に痛みは出ませんし、削った部分が知覚過敏になる心配もありません。
歯を削ったらそこが虫歯になりやすくならないの?
IPRで歯を削った部分はザラザラで、汚れがたまりやすくなります。そのため当院では削った部分を磨いて滑らかな面にしますので、虫歯のリスクは低くなります。
歯を削ることで歯周病になりやすくならないの?
IPRで歯を削って出来たスペースだけ、歯を動かしていきます。そのため、歯を動かした後は、隣の歯との間が少し狭まり、間にある歯槽骨が少し薄くなります。このことが若干歯周病になりやすくなると考えられています。
まとめ

IPR(ディスキング、スライス、ストリッピング)では、歯のエナメル質部分をほんの少し削って、歯を動かして歯並びを整える為のスペースを作ります。
IPRで削るのは0.25ミリ~0.5ミリくらいで、数本削って合計で2~3ミリ程度の隙間を作ります。歯の重なりが大きいなど、それ以上に歯を動かす必要がある場合は、抜歯を伴う矯正となり、部分矯正ではなく全顎矯正となります。