歯科矯正全般

矯正治療で歯のエナメル質を削るIPRは何のために行うの?

歯のエナメル質を削る矯正処置ってどうなの?

大阪矯正歯科グループ 歯科医師 松本 正洋

矯正治療で歯並びをきれいにするためには、歯を並べるためのスペースが必要です。矯正の際に歯のエナメル質を削ってスペースを作る処置は、IPR、ディスキング、スライスなどと呼ばれます。実際にどのような処置で、どのような目的で行われるのかについてご説明します。

矯正治療で行うIPRとはどんな処置?

歯科医院によって呼び方は異なりますが、矯正治療で歯のエナメル質を少し削る処置はIPR(Inter Proximal Reduction)と呼ばれます。

小臼歯を抜歯する抜歯矯正に対して非抜歯矯正の際に行われる処置で、大人の矯正では歯を並べるスペースを作るために良く使用される方法です。

IPRとは

IPRの目的は?

スライス矯正(ディスキング)

歯のエナメル質を削るIPRを行う理由は、患者さんの不正咬合の状態によります。

  • 抜歯せずに前歯のデコボコを解消するため
  • 上下の歯の大きさを理想的にするため
  • 歯並びの安定性をより向上させるため
  • ブラックトライアングル(歯と歯の間の黒い隙間)の解消のため

矯正治療は歯に装置をつけて少しずつ歯を動かして行って、最終的にきれいな歯並びにします。

歯を動かすためにはスペースが必要で、大人の場合は小臼歯を抜歯してスペースを作る場合が多いのですが、軽度の重なりや軽度の出っ歯の場合は、小臼歯を抜歯するとスペースが大きすぎるため、前歯の側面を僅かに削ってスペースを作ります。これをIPRと呼びます。

スライスで削るのはエナメル質のうちの0.25mm~0.5mm程度ですので、通常は痛みが出ることはありません。

エナメル質を削る矯正はどんな人に効果的?

疑問

非抜歯矯正で歯並びを整えたい人

矯正治療では抜歯矯正が良く行われますが、ごく軽度の不正咬合で、僅かに歯の重なりがある方や、少しだけ出っ歯を引っ込めたい方は、抜歯をせずにエナメル質を削る方法で歯を動かすスペースを作る場合があります。

このように、歯を動かすスペースを作りたいけれど、抜歯をする程ではないケースや、どうしても抜歯をしたくない方の場合、IPRと呼ばれる処置を選択します。

ブラックトライアングルを目立たなくしたい人

矯正治療によってブラックトライアングルが出来てしまった場合も、その解消のためにIPRで歯の端を少し削って部分矯正を行い、隣の歯とぴったりくっつけることでブラックトライアングルを目立たなくします。

ブラックトライアングルとは

エナメル質を削る矯正のメリット・デメリット

むし歯になっていない健康な歯を、歯列矯正のために抜く抜歯矯正に抵抗がある方はおられます。そういう方の場合、まだ歯を削る矯正が受け入れやすいでしょう。とはいえ、歯のエナメル質を削る処置のメリット・デメリットを知った後で、矯正治療を検討されても遅くはありません。矯正治療は保険適用外で自費治療となり、高額な料金や時間がかかります。

メリット

1本の歯につき削る量を0.6mm(右0.3mm・左0.3mm)ずつエナメル質の厚みを削ると、前歯から奥歯まで12本行えばおおよそ7mm程度のスペースを作ることができます。おおよそ4番と呼ばれる小臼歯の幅は7mmです。つまり小臼歯1本分のスペースが空くことになり、絶対に歯を抜きたくない方にはメリットです。

また、歯のエナメル質を削るとブラックトライアングルが解消されます。歯周病にかかってしまうと、歯肉が痩せていき、歯と歯肉の間に黒い三角形のブラックトライアングルが起きやすいです。前歯の場合は笑った時に見えてしまうので審美面で気にされる方も多いです。

ところが歯のエナメル質を、ブラックトライアングルの隣接歯のどちらもを削ると、高い位置のみで接触しトライアングルの目立っていた歯が、矯正により歯と歯の接する面が多くなります。つまり歯と歯の接触面が増えるので、ブラックトライアングルが小さくなり、目立ちにくいというメリットです。

デメリット

エナメル質を削ることで、飲食により歯がしみやすくなる知覚過敏を起こす可能性、虫歯になりやすくなる可能性が考えられます。ただ、IPRでは、一定の範囲内で歯を削りますので、殆どの場合、これらのリスクは回避できます。

歯を削ることで歯が弱ってしまうのではと心配される患者さんもおられますが、IPRの場合はエナメル質を全部削るわけではありません。エナメル質の幅は個人差があり1~1.5mmほどあります。矯正治療ではどれだけ多く削っても、0.5mm程度です。

歯を削る際に痛みはあるの?

IPRと呼ばれる処置では、歯のエナメル質のみ削りますので、痛みはありません。

歯のエナメル質の下には象牙質という組織があります。象牙質には象牙細管があり、神経細胞が走っているため、象牙質の近くまで削ると熱の刺激を感じた時などに痛みを感じる場合があります。

矯正治療で歯のエナメル質を削る処置に関するQ&A

Q

矯正治療で歯のエナメル質を削る処置はどのような目的で行われるのですか?

A

エナメル質を削る処置は、正常な位置に歯を移動させるためのスペースを作ることを目的に行われます。

Q

矯正治療でエナメル質を削る処置はどのような人に効果的ですか?

A

エナメル質を削る処置は、抜歯をせずに非抜歯矯正で不正咬合や歯並びの問題を解決したい人に効果的です。

Q

IPRで歯を削る際に痛みはありますか?

A

IPR、ディスキング、スライスなどの処置では、歯のエナメル質のみを削るため、通常は痛みを伴いません。稀にエナメル質の薄い患者さんの場合、知覚過敏のような症状が出る場合があります。

まとめ

矯正治療で歯のエナメル質を削る処置について、疑問をもたれる患者さんもおられるでしょう。その場合は、歯科医師やスタッフになぜ必要なのかご確認ください。もちろん、医師が診療の際に処置の必要性について説明は行っていますが、疑問や質問がある場合はきちんと解消した上で治療を受けることが望ましいです。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。矯正歯科の認定多数。日本抗加齢医学会 認定医。

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