今日は「矯正と耳の痛み」の関連性についてご説明します。矯正治療の前後や、最中に「耳が痛いと感じるようになった」というトラブルを抱える方も、たまにおられます。
耳の痛みと顎関節症との関連
歯の矯正中に耳の痛みを感じる原因として考えられるものの一つに、顎関節症(TMJ: Temporomandibular Joint Disorder)があげられます。矯正治療では、歯並びや噛み合わせが徐々に変化するため、顎の関節に負担がかかることがあります。この負担が耳の周りの筋肉や関節に影響を与え、耳の痛みを引き起こす可能性があります。特に、以下の症状に心当たりがある場合は、顎関節症の疑いが強くなります。
- 顎を開けたり閉じたりする際に痛みがある
- 顎関節付近で音が鳴る(カクカク、パキパキといった音)
- 頭痛や首の痛みを伴う
- 耳鳴りや耳の閉塞感
矯正治療中に顎関節症が疑われる場合は、早めに歯科医に相談し、治療計画を見直すことが大切です。
矯正中に耳が痛い場合の処置
矯正中に耳が痛いと歯科医師に相談の前に、まず耳のどのあたりが痛いのかをしっかりご確認ください。耳の下でしょうか、耳の横でしょうか。
耳の下が痛い
耳の下であごの近くが痛いという事ですと、噛み合わせを正しい位置に動かすことで起こる筋肉痛か、親知らずの痛みと考えらえます。噛み合わせを正しい位置に動かすための筋肉痛であれば、処置や改善の必要は感じられません。いずれ、正しい噛み合わせの位置で噛む事に筋肉も慣れてきます。
一方、親知らずによる耳の痛みは主に智歯周囲炎や虫歯でしょう。智歯周囲炎は歯肉に菌が入り込み炎症を起こす病気で、何度も起こると歯根に嚢胞が出来てしまい(歯根嚢胞と呼びます)、根管治療や歯根先端除術という手術が必要となる場合があります。これにかかると、歯周組織が腫れたり、耳に痛みを覚えたり、食べ物を飲み込みにくいという方もいらっしゃいます。そのような状態になった親知らずは、抜歯をするケースもあります。
矯正前に知りたい「親知らずの抜歯」について
ちなみに、矯正の治療を検討される際で気になる親知らずについてご説明します。 親知らずが生えた事により、不正咬合を促進させ噛み合わせが悪くなった場合、親知らずを抜歯しての矯正治療が有効です。前突、開咬、叢生、受け口、過蓋咬合など、どの不正咬合かによって治療方法は異なります。ただ、矯正を行うために親知らずを必ず抜歯しなければいけないわけではないという事を覚えていてください。
抜歯しなければいけない場合、抜歯はデメリットと捉えられがちですが、あながちそうでもありません。歯を抜いて、正しい位置に歯並びを揃えることで、歯ブラシでのブラッシングがやりやすくなり、他の歯を長く保つというメリットに繋がります。
耳の横(頬のそば)が痛い
ただ、矯正治療を行っている最中に、耳の穴から水平に前に行った位置(おおよそ1.5cm)が痛いという事ですと、顎関節症の疑いがあります。顎関節の変形により顎関節症になると、耳鳴り、耳の奥が痛い、耳のつまり、難聴などを引き起こすことがあります。 もちろん、そこまで重症にならなくても、日常生活でお口の開閉、食べ物を咀嚼する時、食いしばりや歯ぎしりなどで痛みが起きます。
歯ぎしりや食いしばりを常に行っていると、歯はすり減ります。そのすり減った歯の分だけ、癖のない一般の方よりも噛み合わせの位置は低いです。そのため、顎関節は一般の方よりも多く動かないといけなくなり、負担が増して、どんどん関節円板がすり減ってしまいます。
上記のような疑わしい痛みが出た場合は、まず矯正を行っている歯科医院へ行き、歯科医師にご相談ください。矯正歯科で治療を継続する事が厳しい重度の状態でしたら、矯正治療を止めて、顎関節症を先に治療をしなければなりません。担当医が紹介状を書き、口腔外科を診療科目として掲げる大学病院へ通院するようにおすすめするでしょう。
耳が痛いと感じる原因二つ
耳が痛いケースでは、耳鼻咽喉科関連の病気の可能性が高いため、まず耳鼻科を受診すると思います。ただ、耳鼻科を受診した結果、耳に異常がないと言われる場合があります。その場合は、親知らずや顎関節が原因で痛みが出ている可能性がありますので、歯科にご相談ください。
- 顎関節症
- 親知らず
この2つは歯科で治療を行うことが出来ます。
その1・顎関節症で耳が痛い
顎関節とは、耳より少し前の位置にある下顎窩(かがくか)と呼ばれる頭の骨の窪みと、下顎頭(下顎の骨)が丸く突き出て入っている所です。下顎窩と下顎頭間にある組織が関節円板と呼ばれるものです。
関節円板は骨よりも柔らかい組織で作られていて、下顎窩と下顎頭が摩擦を起こさないようにするクッションのような働きをします。それが上下の歯の噛み合わせの悪さにより、関節円板の位置が前方にずれてしまいます。すると、口の開閉時に下顎窩と下顎頭が擦れて、関節円板を圧迫しますので、顎関節症を引き起こします。
「口を開ける度にあごから音がする」「口が開けづらい」などは、顎関節の痛みや不調により起こります。歯の咀嚼機能が著しく低下するため、食事をしていてもおいしく咬めませんし、栄養の吸収も悪いでしょう。また、口が開けづらい場合、人と話をするのもしんどいです。
その2・親知らずで耳が痛い
親知らずで耳が痛いというケースについてご説明します。親知らずは第三大臼歯のことで18歳頃から生える奥歯です。
一般的に親知らずは他の永久歯と同様にまっすぐ生える方は少なく、斜めや横向きに生える、もしくは埋まったまま(埋伏歯と呼びます)という事が多いです。変な生え方をしているため、歯垢(プラーク)や食べかすがご自身の歯磨きでは掃除しにくく、親知らずが虫歯になったり、智歯周囲炎というトラブルに繋がります。それにより痛みが発生し、耳が痛いということになります。
耳の痛みが続く場合の対応
矯正治療中に耳の痛みが数日以上続く場合や、痛みが強まる場合は、すぐに歯科医に相談することが重要です。耳の痛みは矯正に伴う一時的なものの場合もありますが、長期間続く場合は何らかの治療が必要な場合があります。歯科医と話し合い、症状に合った対応策を取ることで、治療の快適さを保つことができます。
歯の矯正と耳の痛みの関連性に関するQ&A
耳が痛い場合、まずどんな種類の医療機関に相談すべきですか?
耳が痛い場合、まず耳鼻咽喉科を受診すべきですが、耳鼻科で異常がない場合は歯科に相談するべきです。
耳の下が痛い場合、その原因として考えられる主な要因は何ですか?
耳の下が痛い場合、噛み合わせの筋肉痛や親知らずによる痛みが考えられます。噛み合わせの筋肉痛は正しい位置に噛み合わせを調整する過程で起こり、通常は特別な処置が必要ありません。親知らずによる痛みは智歯周囲炎や虫歯が原因で、抜歯や治療が必要な場合があります。
顎関節症はどうやって治療するのですか?
顎関節症の治療は、矯正歯科で顎関節の状態を評価し、必要に応じてCT撮影などの精密検査を行います。治療には噛み合わせの調整や物理療法、場合によっては手術が含まれます。
まとめ
今日は「矯正と耳の痛みの関連性」についてご説明しました。耳が痛いときに、耳鼻科に行っても原因がわからず痛みが取れない場合は、是非一度歯医者さんや他の診療科に相談されるとより良いと思います。