矯正治療を終えて綺麗な歯列を手に入れたのに、歯並びが後戻りを起こしてデコボコしてきたというご相談を頂くことがあります。後戻りをした理由の中には治療後にきれいな歯並びを保つための保定装置(リテーナー)をいつの間にか使わなくなってしまったというものがあります。
歯並びが後戻りをすると再治療を行わなければなりません。後戻りの原因はそれ以外にあるのか、後戻りを防ぐにはどうすればいいかをご説明いたします。
目次
後戻りを起こした原因1. リテーナー装着を怠った事
せっかく矯正歯科に通院して頑張って歯並びを治したのに、歯列が後戻りしてしまう一番多い理由は、リテーナーと呼ばれる保定装置の使用を怠ったという事です。リテーナーには固定式と取り外し式のものがあり、ここでいうリテーナーは後者の方です。
歯を動かしてきれいな歯並びになったら、次は、きれいになった歯並びを安定させ、維持するリテーナーの装着期間が必要です。この期間を保定期間と呼びますが、リテーナー装着を怠ると、歯並びが後戻りを起こすリスクが格段に高まります。
ブラケットやマウスピースで歯並びの治療を終了して約1年位は、骨(歯槽骨)の中で歯が固まっていない為、リテーナーがないと動いてしまい、後戻りを起こすことになります。つまり、見た目はきれいになっても、その後、歯が骨の中で定着するまで時間がかかるという事です。
後戻りを起こした原因2. 歯並びを悪くした原因である舌癖等がまだ残っている
保定装置をしっかりと装着していたけれど、後戻りをした方の場合は、次のような事が考えられます。
歯並びを悪くする原因がまだお口の環境で残っている場合です。頬杖やうつぶせ寝、横に向いて寝るなどの癖がある方、噛む力が大きい方、親知らずが横向きに生えているなどに心当たりはありませんか。
お子様の場合はこれらの項目以外に指しゃぶりも後戻りの原因として挙げられます。
お口の癖がある方のケースでは、舌を前に押し出したり、頬杖を突いたりという事で歯を前に動かしてしまうのです。後は、子どもの患者さまのみでしょうが、指しゃぶりをしていると、指が前歯を押して出っ歯になってしまいます。悪い癖=悪癖については下記のリンクをご参照くださいね。
噛む力が大きいケースでは、歯はもともとわずかに前に傾いて生えているため、力がかかると前に動いてしまいます。
親知らずが骨の中で横に生えている方のケースでは、歯はどうしても生えてこよう(萌出しよう)とする性質なので常に親知らずが前方へ動こうとする力が働いて、前歯がガタガタになる症例が多いのです。
後戻りを起こした原因3. 親知らず
子供時代に矯正治療をされた方で、大人になってから親知らずが生えてくることがあります。親知らずが斜めや横向きに生えて他の歯に常に力をかけるような状態であると、親知らずに押されて歯並びが悪くなり、後戻りの原因となります。
成人矯正では治療の前に親知らずの抜歯をすすめられることが多いと思いますが、それは将来的に親知らずが原因で歯列の後戻りが起こる可能性があるからです。そうならない為に、先に親知らずを抜歯します。
ただ、親知らずを抜歯した場合としなかった場合で、歯並びに差はなかったという論文が発表されており、親知らずが歯列に及ぼす影響の科学的根拠については、歯科医師の間でも意見が分かれるところです。
後戻りを起こした原因4. 加齢による歯並びの変化
加齢による変化は身体だけでなく口腔内にも起こってきます。
- 歯と歯の隙間に食べ物が詰まりやすくなった
- 歯と歯の間や、歯と歯茎の間がデコボコしてきた
- 歯が黄色く見えるようになってきた
- 歯茎が痩せて歯が長く見えるようになってきた
このような加齢に伴う歯肉の退縮や歯の移動は、どなたにも多少は起こってきます。一般的に歯は加齢によって前方に動く傾向がある為、若いころはきれいに並んでいた前歯が少し重なってきたという歯の移動が起こりがちです。このような加齢変化も原因となります。
矯正治療後の後戻りとは?
治療を終えた後は、今までの装置を外して保定装置というものをつけて頂く保定期間に移行します。
装置が外れたら矯正は終わりだと思われるかもしれませんが、実はきれいな歯並びを保つためには保定期間が大変重要で、保定を怠ると治療前の元の歯並びに少しずつ戻っていってしまいます。
これを「後戻り」と呼んでいます。
不正咬合のお口の状態を、ワイヤーやインビザラインを長い期間つけることでせっかく治したのに、綺麗な歯並びを保てずに元に戻ってしまっては悲しいですよね。
心理的ショック以外にも、高い費用がかかる自費診療に当たりますので、費用の問題、また再治療の為にクリニックへの来院を行う時間的問題も発生します。
治療後に後戻りを起こした場合どうすればいいの?
後戻りの原因として、前述した舌の癖などがある場合は、まずこれをなおすことが必須となります。
原因となる癖をなおした上で、歯並びへの対処には2つの対処法があります。それは「再治療」と「リテーナーを今後しっかり使用していく」ということです。
リテーナーを紛失してしまった方は、通院されていた歯科医院のドクターやスタッフにご相談くださいね。有償ですが、担当医による診療を行ったうえで、新しいリテーナーの再作製は可能と思います。
リテーナーを無事に手に入れられたら、装着時の注意点に気を付け、装着時間をしっかり守りましょう。
リテーナーにはどんな種類がある?
リテーナーには固定式と可撤式(取り外し可能)の二種類があります。
固定式のリテーナー(固定式保定装置)
固定式で有名なリテーナーはフィックスリテーナーというものです。細いワイヤーを歯の裏側に専用の接着剤で付けて歯を保定します。固定式ですのでご自身では外せません。そのため歯が動くことに対しての抑止力が強く、前歯にこれを長くつけることが好ましいです。
一方で小さなものとはいえ、歯の裏に装置をつけますので、しっかりブラッシングをしないと虫歯や歯周病になりやすい環境になります。定期的に歯科医院で歯のクリーニングを受ける必要があります。
取り外し式のリテーナー(可撤式保定装置)
可撤式で有名なリテーナーは、ベッグタイプ、ホーレータイプ、ソフトリテーナーというものがあります。ベッグタイプ、ホーレータイプ(床タイプ)は、ワイヤーで表側から歯を抑え、舌側は透明なプラスチックで、着脱が可能なものです。
これらのリテーナーは食事や歯磨きの際に取り外しが可能なので、お口をより清潔に保てるということがメリットです。厚みがあり慣れるまでは喋りにくいこととワイヤーが人から見えることがデメリットです。
後は、ワイヤーではなくマウスピース型のクリアリテーナー(別名:インビシブルリテーナー・トゥースポジショナー)も良く使われています。取り外し式のリテーナーは患者さんご自身に装着を積極的に行っていただく必要があります。
後戻りした場合の再治療について
「綺麗な歯並びをもう一度手に入れたい」と再治療を選択する方は、どのような治療法があるのでしょうか。
一度矯正治療を受けておられるので、歯並びが元に戻ったと言っても、治療前の状態というわけではないと思います。少しの不正咬合を治すためには、部分矯正を行います。部分矯正なら全顎矯正と比べて費用と治療期間が少なく済み、早い方で3ヶ月程度で歯並びがきれいになります。
部分矯正に使う装置は、ワイヤーとブラケットや、マウスピース型装置が考えられます。周囲の人に気づかれにくい審美性でインビザラインを選択される方や、表側からのワイヤー矯正、歯の裏側にブラケットを装着するインコグニト(裏側矯正)など、種類があります。
後戻りをした場合は、以前に治療を受けた歯科に相談して頂くのが一番の近道です。当時の担当医に不満がある場合は、いくつかの医院で歯並びに関するカウンセリングを受け、セカンドオピニオンを得た上で、一番納得のいく歯科医院を選んで治療を受けられると良いと思います。
矯正治療後に歯並びが後戻りした時の原因に関するQ&A
リテーナーの役割は何ですか?
リテーナーは歯列矯正の治療終了後、歯並びを保持・安定させるための装置です。歯が骨に固定するまでの期間に使用し、後戻りを防ぎます。
リテーナーの種類と違いは何ですか?
リテーナーには固定式と可撤式の2種類があります。固定式は歯の裏側に取り付けられ、可撤式は外して使います。固定式は後戻りを防ぎやすい一方、可撤式は歯のクリーニングがしやすく、舌癖の改善にも利用されます。
後戻りした場合の対処法は?
まずは原因となる舌や癖を改善することが重要です。また、再治療やリテーナーの使用を検討することが考えられます。再治療では部分矯正を行い、歯並びを修正することができます。リテーナーは装着して歯並びを安定させる手段です。どちらの方法も歯科医院で相談し、適切な対策を取ることが大切です。
まとめ
矯正治療の終了後は保定期間となり、保定装置を歯に装着します。保定期間中にリテーナーをしっかり装着していれば、歯並びが後戻りするリスクが減ります。
治療終了後の保定期間も大切な治療の期間です。綺麗な歯並びと正しい咬み合わせの状態をキープ出来れば、顎関節への負担が減ります。是非大切な歯の為にも、保定装置の使用をしっかりと行ってください。
矯正治療後の後戻りの原因にはいくつかありますが、以下の二つの研究はその主要な原因を示しています。
1. 矯正治療後の後戻りの原因と予防方法の概要
矯正治療後の後戻りは、全ての患者にとって予測不可能なリスク要因です。治療前に患者に長期的な後戻りのリスクとこれを減少させる方法について情報提供する必要があります。治療後のリテンション(保持期間)は、軟組織の変化や遅れた成長など、歯科医のコントロールを超える原因による歯の位置の長期的な変化を説明するかもしれません。リテンションの目的は、治療後に歯を正しい位置に維持することです。【Namdar & Etezadi, 2017】
2. 回転した歯の後戻りとサーカムフェレンシャル・スプラクレスタル・ファイバロトミー
歯の回転を矯正する際、装置を取り外した後に再び回転することがよくあります。サーカムフェレンシャル・スプラクレスタル・ファイバロトミー(CSF)は、歯の回転を解除した後に上顎繊維の緊張を緩和し、後戻りのリスクを減少させるかもしれません。しかし、後戻りの量と位置を正確に識別することが臨床的に重要です。この研究の目的は、CSFを施した後の回転歯の矯正後戻りの量を決定することでした。【Al-Jasser, Al-Subaie, Al-Jasser, & Al-Rasheed, 2019】
これらの研究から、矯正治療後の後戻りは、患者の口腔内の軟組織の変化や成長の遅れなど、多くの原因によって引き起こされる可能性があることがわかります。また、リテンションとCSFのような特定の治療手順が後戻りを減少させるために有効であることが示唆されています。