
矯正治療を開始された直後の患者さんにとって、痛みはかなり気になる問題だと思います。痛さの感じ方には個人差がありますが、歯が動く際の痛みを和らげる方法についてご紹介します。
矯正治療はどうして痛みが出るの?
「矯正治療は痛いって聞くけど、どうして痛みが出るの?」と気になっている方もいらっしゃるかもしれませんね。実は、矯正治療の痛みには、歯が動く仕組みや装置の影響が関係しています。では、具体的にどのような理由で痛みが生じるのか、ご説明します。
1. 歯が動く際に「圧力」がかかるため
矯正治療では、歯に力をかけてゆっくり移動させることで歯並びを整えていきます。
- ワイヤー矯正の場合 → ブラケットとワイヤーが歯に力をかける
- マウスピース矯正の場合 → マウスピースの形状が歯を押しながら動かす
歯に力が加わると、その周囲の骨や歯茎の細胞が変化し、歯が移動する準備を始めるのですが、このときに軽い炎症が起こるため、痛みを感じることがあるのです。
2. 痛みを感じるタイミング
矯正治療の痛みは、特に治療開始後や装置の調整後に強くなることが多いです。
痛みが出やすいタイミング
マウスピースを交換した直後(マウスピース矯正の場合)
ゴムかけ(顎間ゴム)を始めたとき
噛むと歯に圧力がかかる食事のとき
通常、痛みは数日(2~3日程度)で落ち着くことが多く、1週間ほどで慣れてくることがほとんどです。
3. 装置が粘膜に当たることで痛みが出る
矯正治療中は、口の中に異物(矯正装置)がある状態になります。
裏側矯正の場合 → 舌が装置に当たりやすい
マウスピース矯正の場合 → 慣れるまで違和感を感じることがある
装置が当たる部分が擦れて口内炎ができることもありますが、専用のワックスを使うと負担を軽減できます。
4. 痛みの感じ方には個人差がある
矯正の痛みには個人差があります。「すごく痛い…」と感じる方もいれば、「思ったより平気だった」という方もおられます。
痛みを感じやすい人
- 歯の動きが大きい場合(抜歯矯正など)
- 初めて矯正装置をつけたばかりの方
痛みを感じにくい人
- 軽度の歯並びの矯正をする場合
- マウスピース矯正など、ゆるやかに歯を動かす治療
「痛みが不安…」という方は、痛みが出にくい矯正方法(マウスピース矯正など)を選ぶのもひとつの方法ですね。
5. 矯正の痛みを和らげる方法
矯正の痛みが気になるときは、以下の対策を試してみましょう。
装置が当たる部分に矯正用ワックスを使う
冷たい飲み物や氷で冷やすと痛みが和らぐことも
痛みが強い場合は、市販の鎮痛剤を活用する(医師に相談の上)
通常、痛みは一時的なものなので、数日たつと和らいでいきます。
矯正治療中の痛みを和らげる方法
1. 冷却する
冷却は腫れと痛みを軽減する効果があります。15分ほど冷やし、その後15分休憩するというサイクルを繰り返すのが効果的です。直接肌に氷を当てるのは避け、タオルなどで包んでから使用してください。また、冷やしすぎないように注意が必要です。
2. 痛み止めの薬

痛み止めのお薬は治療中の歯科医院で処方してもらえると思います。お手元に鎮痛剤がない時は、ドラッグストアで購入できる市販薬の鎮痛薬を服用することで和らぎます。
しかし鎮痛剤を多用したり、長期にわたって飲み続けるのは出来るだけ避けたいものです。また、鎮痛剤を服用すると歯が動きにくくなりますので、治療期間がやや長くなるかもしれません。
3. 塩水でうがいをする
塩水うがい(水500mlに対して塩小さじ1/2程度)を1日数回行うことで、口内の清潔を保ち、炎症を抑える効果があります。ただし、塩分濃度が高すぎると刺激になるので注意が必要です。
4. お湯を口に含む

表側からのワイヤー矯正、裏側矯正の患者さん限定の痛みを和らげる方法として、口腔内にお湯を含むという方法があります。ワイヤーの特徴上、お湯をお口に入れると、その温度によって締め付ける力が弱まります。つまり、歯にかかる力が軽減されますので、少し和らぎます。
ただし、インビザラインなどの取り外し可能なマウスピース型装置をご使用の方には、この方法はおすすめできません。マウスピースは透明なプラスチック製で40度以上のお湯によって変形してしまうデメリットに繋がります。変形すると、歯にはまらなくなってしまったり、マウスピースの破損でお口の中を傷つけるトラブルになりますので、ご注意ください。
5. 矯正用のワックスで装置を覆う

こちらもワイヤー矯正の患者さんのケース限定となりますが、矯正用のワックスを利用するのも一つの方法です。装置に塗布して覆う事が出来るので、痛みを和らげることが可能です。矯正用ワックス、もしくはリリーフワックス、歯科用粘膜保護剤と呼びます。
形状も、ちぎって使うワックスタイプや、時間が経過すると固まるシリコンタイプなどさまざまなメーカーから発売されております。歯科医院によって取り扱いは異なりますので、担当医に相談をすると、紹介してくれると思います。綺麗に洗った手でちぎり、ブラケットの周りの水分を取り、カバーしたい箇所の上にワックスを軽く押します。
ワックスを使う事により、ブラケットが口内に当たっておこる口内炎などはカバーすることができますので、粘膜や舌の保護が可能です。
6. 軽くマッサージをする
清潔な指で歯茎を円を描くようにやさしくマッサージします。1箇所につき10秒程度行い、痛みを感じたら中止してください。
7. 歯医者でマウスピースの縁を滑らかにしてもらう
マウスピース矯正の患者さんで、マウスピースにバリが残っており、頬や歯茎の粘膜に当たり擦れて痛い場合があります。その場合の対処は、歯科医院に連絡してマウスピースの縁を削って滑らかにして貰うということです。
患者さんご自身でやすりを使ってマウスピースの当たる部分を削り取る方がおられますが、これはお勧めできません。歯科医院でやって貰った方が安全です。
8. 柔らかい食事
スープ、ヨーグルト、マッシュポテト、パスタなどの柔らかい食べ物を選びましょう。固い食べ物や極端に熱い/冷たい食べ物は避けてください。また、小さく切って食べることで、噛んで小さくする負担を減らすこともできます。
矯正治療中の痛みの種類
1.歯が動く時の痛み
歯が動く仕組み 出典:日本成人矯正歯科学会
装置やワイヤーの調整の時に起こりやすい痛みで、歯が移動する時に力が加わると、歯の周囲の神経や血管が圧迫されて痛みが起こります。
特に理想的な歯列からずれたり飛び出している歯は動かすための力がかかりますので、他の歯に比べて痛みを強く感じやすいです。ワイヤー矯正ではワイヤーをつけかえた時、マウスピース矯正では新しいアライナーをつけ始めた時に痛みが出やすいです。
痛みが出るということは、歯が治療計画通り正常に動いていることを示していますので、患者さんのどなたにも起こり得ることですが、痛みがある間は仕事や勉強に集中しにくくなりますし、食事も億劫になりがちだと思います。
治療が進んでいくに従って、このような痛みは軽減していきます。治療の最後の方では殆ど気にならない程度になりますので、ご安心下さい。
2.装置が当たる痛み

ワイヤー矯正のブラケットやマウスピース型装置が歯ぐきや頬の内側に当たって刺激され、痛みを起こす時があります。口内炎になると、それが治るまでの間は常に痛みますので、ひどくなる前に早く対策をとらなくてはいけません。
まとめ

今回は「矯正の痛みを和らげる4つの方法」についてご説明しました。装置を装着し始めて2週間くらいは、痛みに慣れず困る方もおられるかもしれません。次の装置交換や調整が嫌だなと思われると思います。
ただ、人間は痛みには慣れていきます。最初の装着時にはずっと痛みを伴っていたのに、次の交換時には3日で済み、その次には交換をした日のみ痛いという経験をされる患者さんも多いです。もちろん、どうしても痛い場合は必ずクリニックのスタッフか歯科医師にご相談ください。綺麗な歯列、正常な噛み合わせを目指して、矯正治療を乗り越えていきましょう。