歯科矯正全般

歯科矯正用のアンカースクリューは怖い?

歯科矯正用のアンカースクリューって怖い?

大阪矯正歯科グループ 歯科医師 松本 正洋

治療の計画を作成する時に、アンカースクリューの埋入をご提案する場合があります。歯科医がカウンセリングや検査で患者様の歯列をチェックし、アンカースクリューが必要と診断することは珍しくはありません。言葉からだと、なんだか怖いイメージですが、どのようなものかて詳しくご説明します。

矯正で使用するアンカースクリューってどんなもの?

アンカースクリューは、別名ミニスクリュー、ミニインプラント等と呼ばれ、歯科の専門用語ではTADと言います。2012年に厚生労働省の認可を受けた治療方法です。
上の写真のように小さなネジの形をしており、大きさは直径1.5mm、長さ7~8mmで女性の小指の爪よりも大変小さな目立たないサイズです。
これを歯茎に打ち込んで、歯を引っ張って動かすための固定源として、歯との間に矯正用のゴムをかけて引っ張ります。

歯ぐきにネジを打ち込むなんて怖いと思うかもしれませんが、痛みや腫れが生じることはほとんどありません。
アンカースクリューを使うことで強い力で歯を引っ張ることが出来、抜歯を伴う治療等、歯を大きく動かさなければならない八重歯や出っ歯の治療に効果的です。
歯が動きやすくなるので、治療期間の短縮にも繋がります。

アンカースクリューはどんな時に使うの?

歯科矯正用アンカースクリュー

上のイラストの様に、歯と歯の間にすき間があって、歯を動かしてすき間を埋めたい場合に、固定源としてアンカースクリューを使います。

上のケースでは、大臼歯を前に動かすことですき間を埋めます。
歯をどちらに動かすかで、アンカースクリューを打つ場所が変わります。例えば前歯を後ろに下げたい場合は、奥歯の歯茎に打ち、ゴムで後ろに向かって歯を引っ張ります。

スクリューを埋入する位置は、より正確に、精密にするために、クリニックでレントゲン撮影をします。画像で部位や方向を確認し、局所麻酔を打ち、場所を限定して埋め込むのが一般的です。素材はチタンやチタン合金製で骨との親和性も高く、体に優しいものです。治療が完了し必要なくなれば抜いてしまいますし、インプラント治療のように、一生お付き合いするというものではありません。

アンカースクリュー(ミニスクリュー)の働き

歯列矯正中に使用されるアンカースクリュー(ミニスクリュー)の働きについてご説明します。

矯正力の支点として機能

矯正治療では、歯を動かすために力をかける必要がありますが、その力の「支点」となる部分が重要です。アンカースクリューは顎骨に直接埋め込むことで、固定された支点として機能し、安定した矯正力を提供します。この支点を使用することで、他の歯に余計な力を加えず、効率的に動かしたい歯だけを移動させることが可能です。

特定の歯を動かすサポート

通常の矯正治療では、歯を動かすための支点として隣接する歯が利用される場合がありますが、その結果、隣接する歯も一緒に動いてしまうことがあります。アンカースクリューを用いることで、特定の歯だけを正確に動かすことができ、隣の歯に影響を与えるリスクを大幅に減少させます。

治療期間の短縮

アンカースクリューの高い固定力により、矯正力を直接的、効率的に歯に伝えることができるため、歯が動きやすくなり、治療の進行が早まって、結果的に治療期間を短縮する効果が期待できます。

骨の固定性を活用

アンカースクリューは歯ではなく顎の骨に埋め込まれるため、非常に安定した支点として機能します。この骨の固定性を活用することで、従来の矯正方法では難しい複雑な力の操作も正確に行うことができます。

複雑な矯正動作を実現

アンカースクリューは、歯を引っ張る、押す、回転させるなど、通常の矯正治療では難しい複雑な動きを実現するために使用されます。これにより、不正咬合や難症例の矯正がより正確かつ効率的に行えます。

外科的処置の代替手段

アンカースクリューを利用することで、矯正治療中に抜歯や外科的処置を回避できるケースもあります。これにより患者さんの負担が軽減され、治療に対する心理的な抵抗感も減少します。

目立たない治療オプション

アンカースクリューは非常に小型で、口腔内の奥まった部分に設置されるため、目立ちにくいのが特徴です。特に審美性を重視する患者さんにとって、見た目への影響を最小限に抑えながら治療を進められる点は大きなメリットです。

痛みや不快感の軽減

アンカースクリューを使用することで、隣接する歯や歯列全体に無駄な力がかからないため、患者さんが感じる痛みや不快感が軽減される場合があります。また、固定された支点から正確に力を加えるため、効率的かつ痛みを抑えた矯正治療が可能になります。

難症例の矯正治療に有効

アンカースクリューは、通常の矯正器具だけでは対応が難しい症例、例えば上下の歯列のズレが大きい場合や、抜歯を伴う矯正治療などで特に有効です。これにより、より広範囲の患者さんに対応できる治療オプションとなります。

治療計画の自由度が向上

従来の矯正治療では、矯正力の支点が限られていたため、治療計画にも制約が生じることがありました。しかし、アンカースクリューの導入により、支点を自由に設定できるようになり、矯正治療の計画が柔軟かつ多様化しています。

 

アンカースクリューは特に複雑な不正咬合の治療において、効果的かつ重要な役割を果たします。

アンカースクリューのメリットは?

アンカースクリューのメリットとしてまず挙げられるのは、従来の治療期間を短縮することができます。利用する固定源がある為、通常よりも早く歯の移動をすることが可能となります。特徴としましては、舌側矯正(リンガル矯正)を選択された患者様に多く行いますね。

また、出っ歯(専門用語で上顎前突と言います)の症例の患者様に大変メリットのある治療法です。昔は、改善のために在宅時にヘッドギアという頭蓋骨を固定源にする装置を、かぶってもらうという治療法をクリニックで行っていました。見た目の問題で、装着をきちんとできる患者様はなかなかおられず、負担が多いというのが課題でした。

ですが、矯正用アンカースクリューを埋入すると、ヘッドギアを使用する必要がなく、十分な効果が得られます。奥歯を安定させて動かさず、咬み合わせを悪くしないようにしながら、歯をしっかりと内側に動かすことができるのです。出っ歯の方以外にも、ガミースマイルの方や、開咬の方など口元のさまざまな症例に効果的な治療法です。大変小さなものですので、笑っても周囲にわかりにくく審美的ですし、それに伴う違和感も少ないです。

アンカースクリューは、矯正治療の精度向上や治療期間の短縮、痛みの軽減など、多くのメリットを患者さんにもたらします。また、目立たない形状や治療の柔軟性など、審美的な配慮と機能性を両立させるツールとして、近年ますます重要視されています。

アンカースクリューのデメリットは?

アンカースクリューが不安定な場合、外れてしまうことがあり、再埋入となります。処置にどれほど時間がかかるか不安に思われる方もおられると思いますが、10分程度で終了します。もし、口腔内で不安定だと感じた場合は、すぐご相談いただき、予約よりも早くご来院ください。

矯正治療完了後に跡残らない?


矯正治療が終了し、アンカースクリューを抜く事を考えた際、怖いと身構える方がいらっしゃると思います。スクリューを抜く時どのような方法か、詳しくご説明いたしますね。

いざ抜く場合は、麻酔がほとんど必要がないとお考え下さい。つまり麻酔の使用がいらない程の小さなスクリューを抜くだけです。1本抜歯するような痛みはなく、怖いものではありませんのでご安心くださいね。もし、歯科医が必要と判断した場合は麻酔を使用しますが、ほとんどのケースでは必要ございませんよ。

穴が開いた場合、ふさがるのだろうかと疑問に思われると思います。個人差が多少はありますが、スクリューを抜いた翌日には、歯肉の穴は見えなくなる程、人間の体は治癒能力が高いのです。消毒のみで、穴への治療は不要ですので、気にしないで大丈夫ですよ。骨にあけた穴も数か月後にはふさがっていますので、飲食をされて抜いた穴に食べ物が入って膿が出るか、歯磨きは大丈夫かというトラブルは考えにくいですね。

まとめ


今回は、アンカースクリューというものについてご説明しました。是非、上下左右全て満足のいく歯並びになるというゴールに向かい、治療の一歩を踏み出してみませんか。

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この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。矯正歯科の認定多数。日本抗加齢医学会 認定医。

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