矯正の治療を始める前に注意すべきことは何でしょうか。治療は高い費用や長い期間がかかります。成功させるためにはどのようなことに注意すべきかについて詳しくご紹介します。
矯正治療を始める前に注意すべきこと
矯正治療は、美しく整った歯並びと正しく健康的な噛み合わせを得るための治療です。しかし、治療費や治療期間がかかるため、事前の準備や理解が重要です。装置の種類や費用、リテーナーについてご説明します。
大人の歯の治療期間
全体的か、部分的じゃ、矯正は治療する範囲により治療期間が異なり、歯並びと噛み合わせの治療も必要となれば、全顎矯正が適応になります。歯を動かす動的治療についても、軽度、中程度、重度のいずれに当てはまるかによって様々です。おおよそ1~3年で動的治療を行い、その後動いた歯を固定する保定期間があります。大事な予定(成人式、就職活動、結婚式など)が決まっている方は、それに合わせて治療を開始しましょう。
大人が選べる矯正装置の種類
全ての歯が大人の歯(永久歯)に生え変わっている方が選べる矯正装置です。
ワイヤー矯正
- 歯の表面にブラケットという突起を接着し、ブラケットの中にワイヤーを通して歯に矯正力をかける
- 患者さん自身で矯正の装置を取り外すことは出来ない
普通矯正
- 歯の唇側の表面にブラケットをつけ銀色のワイヤーを通すため、目立つが費用は安く効果が得られやすい
ホワイトワイヤー矯正
- 歯の唇側の表面にブラケットをつけ白くコーティングしたワイヤーを通すため、普通矯正より目立ちにくい
舌側矯正
- 歯の裏側の舌側にブラケットをつけワイヤーを通すため治療中と分からないが、ワイヤーを海外で作製する必要があり、費用が高い
インビザライン矯正
- 3Dスキャンした歯型からシミュレーションに基づく治療計画を立て、目立ちにくいマウスピースを装着し、交換して矯正力をかける
- 食事前や歯磨き前には患者さん自身で取り外すことができる
- 一日20~22時間という装着時間を守らなければ、歯の動きは遅れて、マウスピースの再作製、治療期間が延長することがある
噛み合わせの改善が不要で、わずかに歯を動かすのみならば部分矯正が適応です。その場合の治療期間は3ヶ月~1年程度、動的治療を行い、装置を付ける歯も限定的です。
子供の歯の治療期間
混合歯列期から始める小児矯正は1期治療と呼ばれ、顎の発達や大きさをコントロールして永久歯に生え変わるまでコントロールします。その後、永久歯に全て生え変わってから、歯の噛み合わせに問題がある場合は、歯を動かす2期治療を始めます。大人と違って顎の発達をコントロールする治療を行うため、治療期間としては長く約5~10年ほどかかります。
子供が選べる矯正装置の種類
子供の歯(乳歯)のみ生えている乳歯期、もしくは乳歯と永久歯が混在する時期を混合歯列期の方が選べる装置です。
ムーシールド(乳歯期)
受け口(反対咬合)である3歳から未就学児を対象としたマウスピース型で、就寝時に装着します。舌の位置や筋機能を正常な位置に誘導して、舌の力を顎の発達へ向けることができます。
プレオルソ
受け口の5~10歳までの子供を対象にし、ポリウレタンで作製されていて装着感が柔らかいマウスピース型の器具です。装着時間は就寝中と日中の1~2時間で、お口ぽかんなどの口呼吸を改善することができます。
拡大床
歯がガタガタしている叢生(そうせい)の子供を対象にし、上顎や下顎の歯と歯の間をネジの力で広げる装置です。耐久性があるワイヤーを使用し、アクリル樹脂などを口蓋部分に使用し、成長途中の子供の顎骨を発達させます。
リンガルアーチ
受け口の方が対象で前歯の歯列弓をワイヤーで押して改善する固定式の装置です。永久歯が抜けた隙間を保持するためにも使用し、歯科医院でしか取り外すことができません。
急速拡大装置
上顎が小さいために不正咬合が起きている子供へ、短期間で大きくする固定式の装置です。上顎には10歳頃にふさがる正中口蓋縫合という部分があり、それに矯正力をかけて離開させて広げ、新たな骨を作り安定させる治療法です。
インビザラインファースト
子供の歯列に合わせてオーダーメイドで作製するマウスピース型の装置です。食事の前や歯磨きの際には取り外すことができ、歯列弓を広げられ、治療中と目立ちにくいのがポイントです。
上顎前方けん引装置(Maxillary Protractive Appliance)
MPAと呼ぶ上顎前方けん引装置は、骨格が原因である受け口を、上顎の成長期にけん引して前方へ促進する矯装置です。フェイシャルマスクのフックとお口の中の装置のフックをゴムでつなげてけん引するため、一日12時間以上の使用が必要です。
費用について
矯正治療は顎変形症や口蓋裂など国が定めた疾患においてのみ保険適用で、大学附属病院などの施設で行います。疾患に該当しない場合は保険適用外となり自由診療に該当し、クリニック毎に取り扱う装置も異なります。事前に歯科医院のお見積もりを確認して、費用の計画を立てやすいかどうかを見極めましょう。デンタルローンや歯科医院独自の無利子分割返済プランが導入されているか確認が大切です。
矯正後のリテーナー使用
動的治療と呼ばれる歯を動かす治療が終わった後には、保定期間があります。この期間はリテーナー(保定装置)を装着して歯を固定する静的治療の期間です。動的治療後にリテーナーの使用を怠ると、動いた歯がまた前の位置に戻って歯並びが乱れて後戻りする可能性があります。
矯正中に注意すべき食事と生活習慣
矯正治療中は、装置を着けつつも快適に過ごすため、食事や生活習慣を見直す必要があります。
食事の注意点
避けるべき食品としては、固い食べ物、粘着性の高い食べ物、糖分の多い食品です。
固い食べ物
固い食べ物は装置を傷つけたり、大きく歯に負担を掛けるため避けましょう。フランスパンやナッツ、お煎餅、りんごなどは控えましょう。
粘着性の高い食べ物
粘着性の高い食べ物は、装置に絡まりやすく、外れる原因となります。キャラメルや、チューイングガム、お餅などは控えましょう。
糖分の多い食べ物
糖分の多い食べ物は虫歯の原因になりやすく、装置を歯に着けることから、虫歯ができやすい環境です。チョコレート、キャンディー、ジュースなどは控えましょう。
工夫すべき食べ方
- 食材を小さく切ってから食べる
- 粘着性の高い食べ物は避ける
- 前歯でかじらず奥歯で噛むことを意識する
生活習慣の注意点
生活習慣においては、スポーツや楽器、喫煙や飲酒について注意が必要です。
スポーツ
コンタクトスポーツをされている方は、衝撃により装置がお口を傷つける場合があります。コンタクトの度合いはフルコンタクト、セミコンタクト、リミテッドコンタクト、ノンコンタクトと分けられます。
- ボクシングやラグビーなど力を制限せずに使うフルコンタクト
- 剣道やテコンドーなど相手へ力を抑えて接触するセミコンタクト
- 野球やサッカーなど基本的に距離はあるがたまに接触するリミテッドコンタクト
- テニス、卓球など相手と接触しないノンコンタクト
フルコンタクトスポーツでなければ大丈夫というわけではありません。用具や床などと接触して傷つける場合はありますので、できれば部活動の場合は大きな大会が終わってからか引退してから行うことをおすすめします。
楽器
口にリードを加える楽器を演奏される方や、顎の一部に負担を掛ける弦楽器の場合は、矯正装置の影響が考えられます。フルート、クラリネットなどがリード楽器は、口の中のタンギングが今までと変化したり、歯の動くスペースを作った後は、そこから息が漏れて音色が奏でられないということが考えられます。バイオリンやビオラなどは顎で楽器を挟んで演奏するため、どちらか片側に強い力がかかっています。それにより、治療が進まない可能性がありますので、スポーツと同様に部活動の場合は大きな大会が終わってから、もしくは引退後に行いましょう。
喫煙・飲酒
歯列矯正を行っている最中に喫煙をすると歯茎の血管の流れが悪くなり、それにより歯への栄養が届かず、動きが悪くなってしまうため、治療を成功させたい場合は禁煙を行いましょう。飲酒によりアルコールを体内に入れると歯の動きが進むという情報は正確なデータではありません。矯正開始直後や、調整の直後は痛みが起きることが多いです。飲酒をすると鎮痛剤が効きすぎて体のためにはよくないので、避けておきましょう。
オーラルケアのポイント
矯正中は装置と歯の間や装置の一部に汚れが溜まりやすいため、通常よりも丁寧なオーラルケアが必要です。
歯磨きの方法
矯正治療については専用の歯ブラシを使いましょう。インターデンタルブラシ、デンタルフロスなどを活用し、装置と歯の隙間や歯茎のライン、ワイヤーの下の部分などを丁寧に磨きます。装置を付けていると虫歯になりやすい為、予防のためにフッ素入りの歯磨き粉を選び、1回の歯磨きに5~10分かけ、装置や歯の隙間をしっかりと清潔に保ちましょう。殺菌効果のある洗口液で口をゆすぎ、お口の中を清潔に保つ習慣をつけておくと良いです。
矯正中の痛みや違和感への対処法
矯正中に感じる痛みや違和感は、装置の調整や摩擦により起きることがあります。
痛みや違和感を和らげる方法
調整後のワイヤーの締め付け感、装置が歯茎や頬の内側に当たることによる痛みについては、鎮痛剤(アセトアミノフェン)を服用し、緩和してください。また、矯正治療用のワックスを使うのも効果的です。装置が当たって痛い部分にワックスを上から縫って保護しておくと、口腔内の痛みは減ります。冷たい飲み物や氷で患部を冷やして炎症を抑える方法もありますが、いずれの方法でも痛みが引かない場合は、なるべく早く歯科医院で治療を受けましょう。
治療成功のための心構え
矯正治療は時間や費用がかかります。成功させるためには下記の心構えで開始しましょう。
治療計画を守る
定期的な通院と矯正装置の着用時間を守りましょう。特にマウスピース矯正では、1日20時間以上の装着を行わなければなりません。ワイヤー矯正の方も通院間隔を守りましょう。少しでも怠けてしまうと、治療計画通りに進まず、注意が必要です。
焦らないこと
治療期間が長く、結果が見えるまで時間がかかります。歯科医師と予め決めていた理想のゴールを思い出しつつ、治療途中で諦めないようにしましょう。
モチベーションを保つ
治療終了後の美しい歯並びを目標にして、日々のオーラルケアを続けていくことが大切です。
コミュニケーションを大切に
疑問や不安、質問があればすぐに歯科医師やスタッフへ相談してください。どの治療が不安なのかしっかり話すことで、歯科医師やスタッフはより治療計画を丁寧に説明してくれます。不安を抱えたままで治療を受けることはトラブルのもとになるからやめましょう。
矯正治療後の注意点
「せっかく綺麗になった歯並びは何に注意しておけば状態をキープできるのか」と不安になる方もおられるでしょう。詳しくはこちらをご参照ください。
まとめ
矯正中に注意すべきことを詳しく解説しました。適切なケアと正しい生活習慣を守ることで後戻りせず美しい歯並びや良い噛み合わせにすることができます。自分に合った治療法を選び、治療を快適に進めるために、歯科医師としっかり相談してください。