
歯列矯正では、歯がどの程度動きやすいかは治療の進行に大きく影響し、治療期間が短くなることも少なくありません。患者さんにとっては、少しでも早く快適な状態に到達したいものです。歯が動きやすい人の特徴、治療を効果的に進めるためのポイントや生活習慣についてご説明します。
目次
歯列矯正ではどうやって歯を動かすの?
「矯正で歯が動く」とはよく聞きますが、実際にどのような仕組みで動いていくのか、不思議に思われる方も多いのではないでしょうか?矯正のメカニズムを分かりやすくご説明します。
歯列矯正の基本原理
歯は顎の骨に埋まっているものの、完全に固定されているわけではなく、実は微妙に動くことができる構造になっています。矯正治療では、この性質を利用し、持続的な力をかけることで理想的な位置へと移動させます。
歯が動く仕組みには、「骨のリモデリング(再構築)」という生体の働きが関係しています。具体的には、
- 矯正装置によって歯に一定の力をかける
- その力が歯根を通じて周囲の骨に伝わる
- 力が加わった側の骨が溶け、逆側に新しい骨が作られる
- 徐々に歯が動いていく
このサイクルを繰り返しながら、少しずつ歯並びが整っていくのです。
歯を動かすための矯正装置
矯正にはさまざまな装置が使われますが、それぞれの装置には歯を動かすための異なるメカニズムがあります。
1. ワイヤー矯正(表側矯正・裏側矯正)
金属やセラミックのブラケットを歯に接着して、それにワイヤーを通して動かします。ワイヤーには適度な弾力があり、適切な方向へ引っ張る力を加えることができます。1本1本のに対して力の欠け具合をかなり緻密に調整出来るので、殆どの不正咬合を治すことが出来ます。
- メリット・・幅広い症例に対応可能、比較的短期間で効果が出やすい
- デメリット・・装置が目立ちやすいがセラミックやプラスチック製の白いブラケットや白いワイヤーも使用可能。食事や歯磨きの際に工夫が必要
2. マウスピース矯正(インビザラインなど)
透明なマウスピースを使用し、少しずつ形の異なる装置に交換することで、段階的に動かしていきます。
- メリット・・目立ちにくい、食事や歯磨きがしやすい
- デメリット・・適応できる症例に限りがある、装着時間を守らないと効果が出にくい
3. 矯正用ゴム(エラスティック)
矯正装置にプラスして使うオプションの治療です。装置に専用のゴムをかけて、特定の方向に歯を動かすことがあります。例えば、上下の歯を引っ張ることで、噛み合わせを改善する目的で使用されます。
- メリット・・細かい調整が可能
- デメリット・・装着し忘れると効果が減少
動くスピードと治療期間
歯が移動するスピードには個人差がありますが、一般的には1か月で約0.3~0.5mm程度動くとされています。そのため、矯正治療は数年単位で行われることがほとんどです。
治療期間を短縮するためには、
- 矯正装置の適切な使用
- 定期的な通院
- 口腔内を清潔に保つ
といったことが重要になります。
矯正で歯が動きやすい人の特徴とは?
矯正で歯が動きやすい人にはいくつかの特徴があり、特に、成長期の子どもや若年層は骨が柔軟で、矯正による歯の移動がスムーズに進むため治療期間が短くなりやすいです。また、軽度の不正咬合の場合、歯を移動するスペースや負担が少なくなることで動きやすくなります。新陳代謝が良い人も治療効果が高まりやすく、健康的な生活習慣や規則正しいケアが治療を助ける要素となります。
これらの特徴に加え、歯ぎしりなどの悪習慣を控え、医師の指示に従って定期的に通院することで、治療がさらにスムーズに進む傾向があります。
歯が動きにくい要因もある!
次のような場合、歯が動きにくかったり、時間がかかったりすることがあります。
喫煙習慣がある(血流が悪くなりやすい)
矯正装置の使用が不十分(ゴムかけをサボる、マウスピースを外しがち)
食いしばりや歯ぎしりが強い
成長期の子どもが有利な理由

成長期の子どもが矯正で有利なのは、骨の柔軟性と成長発育の過程が関係しています。成長期には骨が柔らかく、柔軟性があるため、歯が移動しやすく、治療もスムーズに進むことが多いです。また、この時期は骨や組織の代謝が活発で、矯正によって歯が移動する際に必要な骨の再構築が効率的に行われます。
さらに、成長期に矯正を始めることで、顔の成長や顎の発達に合わせた自然な歯の並びが実現しやすく、治療の完成度が高まる点もメリットです。
1. 骨の柔軟性
子どもは骨が柔らかいため、歯が移動しやすく、治療期間が短縮されやすいです。
2. 成長期の自然な骨形成
骨の成長が進むことで、矯正治療中の歯の位置が自然に改善されることもあります。成長期の柔軟な骨の動きが治療に有利に働くため、子どもや若い人は比較的治療が早く進む傾向があります。
軽度な不正咬合では治療期間が短い

矯正治療の難易度は、歯並びの状態にも影響されます。例えば、不正咬合が軽度であると、歯を動かす距離が短いため、治療期間も短縮されやすくなります。
軽度な症状のメリット
軽度な不正咬合であれば、移動距離が短くて済むため、歯が動きやすいです。これは、歯を大きく動かさないので歯の負担が少なく済むことが影響します。
スペースの確保が大切
矯正治療では、歯を動かすためのスペースが確保されていることが重要です。顎が大きい人や歯が小さめの人は、自然に歯が動きやすい傾向にあります。逆に顎が小さく歯のスペースが狭い場合は、スペース確保のために抜歯が必要なこともあります。
生活習慣と代謝の重要性

歯列矯正において、生活習慣や新陳代謝も歯の動きやすさに影響を与えます。以下の要素を整えることで、治療を効率化することが可能です。
代謝が良い人は治療に有利
代謝が高いと矯正で歯が動きやすくなる理由は、骨の代謝が速くなるからです。矯正治療で歯が動く際には、根の周囲の骨が一旦吸収され、新しい位置に移動した状態を支えるために骨が再構築される必要があります。
この吸収と再生のプロセスが代謝の速さによって活発に行われることで、歯の移動が効率的に進みます。また、代謝が高いと血流が良くなり、栄養や酸素が豊富に供給され、骨や歯周組織の健康が維持されるため、矯正装置による治療がスムーズに進みます。
口周りの悪習慣に注意
歯ぎしりや食いしばり、舌で歯を押す癖があると、矯正の効果が弱まります。これらの習慣があると、歯に余計な力がかかり、治療が遅れる原因となります。
医師の指示を守ることと通院の大切さ

矯正治療中、医師の指示を守って装置の使い方や口腔ケアに注意することも、治療期間を左右します。
装置の正しい使用
装置の使用方法を守らないと、期待通りに動かなくなります。毎日指定された時間装置を使用し、歯磨きや健診を欠かさないことで、治療がスムーズに進みます。
定期通院の重要性
医師の指示通りに定期的に通院することで、問題が早期に発見され、適切な調整が行われます。矯正治療は24時間続く治療であるため、通院を欠かさないことが治療促進につながります。
歯が動きやすい条件を備えていない人向けの治療促進方法
歯が動きやすい条件に該当しない場合でも、治療を早く進める方法はいくつかあります。以下の方法を試してみてください。
健康的な生活を心掛ける
栄養バランスの良い食事、規則正しい生活、適切な睡眠を心掛けることで代謝が上がり、歯が動きやすくなります。
歯磨きや健診を徹底する
矯正中はお口の中のケアが特に大切です。歯磨きや定期的な健診を欠かさず行うことで、虫歯や歯周病を予防し、矯正の妨げになる要因を取り除けます。
歯を早く動かすための装置を使う

当院では、治療を早く終えたい患者さんに、PBMヒーリングという装置をご紹介しています。
PBMヒーリングは矯正装置を付けた上から歯全体を覆う形でLEDによる近赤外線(850nm)ライトを照射します。それにより、骨や神経、皮膚の活性化を起こして歯の動きを加速させる装置です。
当院の矯正患者さんで、PBMヒーリングの購入を希望される場合は、担当医にお申し付けください。
まとめ
矯正中の歯の動きやすさは、患者さんの治療期間や効果に大きく関わります。一般的に歯年齢や骨の柔らかさ、生活習慣、症状の程度といった要素が動きやすさに影響を与えますが、いずれの場合も毎日のデンタルケアが大切です。
歯をスムーズに動かすためにできること
適度な運動をする(代謝をアップ)
栄養バランスを整える(カルシウムやビタミンDを摂取)
歯磨きを丁寧に(歯周病予防)
矯正装置の指示を守る(サボらない!)
歯が動きにくい患者さんも、移動を促進する方法がありますので、治療を早く終えたい方は担当医にご相談ください。