
しゃくれは、下顎前突と呼ばれる不正咬合の俗称で、見た目だけでなく、咬み合わせや発音、さらには健康面や心理面にも影響を与える問題です。しゃくれの原因やそれに伴うリスク、治療法についてご説明します。
しゃくれとは?
しゃくれとは、下顎が前に突き出た顔貌を指し、専門的には「受け口」や「下顎前突」とも呼ばれます。しゃくれの程度は軽度から重度まで様々で、外見だけでなく、咬み合わせや発音、さらには健康面にも影響を与えることがあります。この状態は遺伝的な要因や、成長過程での習慣によって引き起こされることが多く、適切な治療が必要です。
しゃくれの主な原因
しゃくれの原因には様々なものがあります。
1. 遺伝的要因
しゃくれは、家族内で似た特徴を持つことが多く、遺伝的な要因が大きく関与しています。特に、親や祖父母がしゃくれである場合、その顎の形の特徴が子供にも現れることがあります。
2. 発育異常
成長過程での骨の発育に問題があると、下顎が正常に成長せず、しゃくれになる可能性があります。この場合、成長期における骨の発育を注意深く観察することが重要です。
3. 習慣的な要因
幼少期の指しゃぶりや舌の癖、口呼吸、うつぶせになってスマホや読書をする時にクッションで顎に圧力がかかるなどの習慣が原因でしゃくれになることがあります。これらの習慣が長期間続くと、下顎の発育に影響を与え、しゃくれを引き起こす可能性があります。
しゃくれのリスクと影響

しゃくれ(下顎前突)は、見た目の問題だけではなく、さまざまなリスクや健康への影響があります。
美容面の影響
しゃくれは、顔のバランスを崩し、美容的な悩みを引き起こすことが多いです。特に横顔の口元のラインが崩れることで、自分の外見にコンプレックスを抱く人が少なくありません。
横顔のプロファイル
しゃくれがあると、横顔で下顎が前に突き出して見えます。このため、顎のラインが不自然に突出し、全体的な顔のバランスが悪くなります。この横顔のラインは、美容面で特に目立つため、自己評価や他人からの視線が気になる原因となります。
前顔のシンメトリー
顔を正面から見たときに、下顎の突出が左右の対称性(シンメトリー)を崩し、歪んで見えることがあります。これにより、顔全体の印象が変わり、見た目に対する不満が強まることがあります。
健康面のリスク
しゃくれは、見た目だけでなく、健康にもさまざまな悪影響を及ぼすことがあります。
咬み合わせの問題
しゃくれのある人は、上下の歯の咬み合わせが正常ではないことが多いです。噛み合わせが悪いせいで、食べ物をうまく咀嚼できないことがあり、消化器系の負担が増えることがあります。また、咬み合わせの不具合は、特定の歯に過剰な負担をかけ、歯の摩耗や歯周病のリスクを高めます。
顎関節症のリスク
しゃくれによって噛み合わせにずれがある場合、食事の際に顎をずらして噛んでいることがあります。それを長期間続けていると、顎関節に負担がかかり、顎関節症(TMJ)のリスクが高まります。顎関節症は、顎の痛み、頭痛、耳鳴り、首や肩のこりなど、さまざまな症状を引き起こします。これらの症状が慢性化すると、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
発音の問題
しゃくれがあると、歯と舌の位置関係が不自然になり、正確な発音が難しくなることがあります。特に「サ行」や「タ行」など、歯と舌を使う音に影響が出やすいです。発音の問題は、コミュニケーションに支障をきたし、社会生活においてストレスの原因となることがあります。
呼吸の問題
しゃくれによって気道が圧迫され、睡眠時無呼吸症候群(SAS)のリスクが高まることがあります。この症状は、睡眠中に呼吸が一時的に止まることが特徴で、疲労感や集中力の低下、さらには心血管系のリスクを引き起こす可能性があります。
心理的な影響
しゃくれは見た目による自己評価の低下だけでなく、心理的な影響も大きいです。
自己評価の低下
自分の外見に対する不満が強いと、自己評価が低下し、他人との交流に消極的になることがあります。特に、外見に敏感な思春期や青年期においては、しゃくれが精神的な負担となることが多いです。
社会的な影響
見た目のコンプレックスが原因で、社交不安や対人関係のストレスが増大することがあります。これにより、学校生活や職場でのパフォーマンスに影響が出ることもあります。
しゃくれの治療法
しゃくれの治療は、原因や程度によって異なります。以下は代表的な治療法です。
矯正治療
「顎の手術は怖いけど、治せる方法はないの?」と思われる方にとって、まず検討したいのが矯正治療です。歯の位置を調整することで、噛み合わせを改善し、しゃくれた印象を和らげることができます。
矯正治療は、歯並びや咬み合わせを改善することで、しゃくれを治す方法です。特に、軽度から中等度のしゃくれには効果的です。ワイヤー矯正やマウスピース矯正など、患者の状態に応じた治療法が選択されます。
マウスピース矯正(インビザライン)
透明なマウスピースを装着し、少しずつ歯を動かしていきます。軽度の反対咬合であれば、この方法で治療可能なこともあります。
ワイヤー矯正(表側・裏側)
より本格的に歯並びを整えたい場合は、ワイヤー矯正が選択肢となります。特に成長期の子供の場合、上顎の成長を促す装置を併用することもあります。
ただし、歯並びの調整だけでは限界があるため、骨格的な問題が大きい場合は次の治療が検討されます。
外科的治療
重度のしゃくれの場合、外科的治療が必要となることがあります。顎の骨を切除・移動させることで、顎の位置を調整する手術が行われます。この治療は、咬み合わせや顔のバランスを大きく改善する効果がありますが、変化させられる限度があり、費用も高額になるため、担当医とよく話し合う必要があります。
その他の治療法
場合によっては、プロテーゼやフィラーを用いた美容的な治療が行われることもあります。これらは、外科的な介入を避けたい場合に選択されることがあります。
どの治療を選べばいい?
「どの方法が自分に合っているの?」と迷われる方も多いでしょう。治療法を選ぶ際のポイントは、次のようになります。
- 軽度のしゃくれ → マウスピース矯正やボツラックス注射
- 中等度のしゃくれ → ワイヤー矯正+補助的な治療
- 重度のしゃくれ(骨格の問題) → 外科矯正(手術+矯正)
顎の状態によって適した治療が異なるため、まずは歯科医院で相談することをおすすめします。「どの程度の治療が必要なのか?」を専門家にみてもらうことで、自分に合った方法を見つけることができます。
しゃくれの予防策
しゃくれは、早期に対策を講じることで予防や改善が可能です。以下の点に注意しましょう。
早期発見と治療
子供の成長期において、定期的に歯科医や矯正歯科医の診察を受けることで、しゃくれの早期発見と治療が可能です。成長段階での適切な対応が、将来的なしゃくれの予防に繋がります。
正しい生活習慣の確立
指しゃぶりや口呼吸などの習慣は、早期に改善することが重要です。また、舌の癖を矯正するトレーニングや、正しい姿勢を保つことも予防に役立ちます。
しゃくれの原因と治療法は患者さんの状況によって異なるため、担当医と相談しながら適切な対応を行うことが大切です。
まとめ
顎がしゃくれている場合の治療法には、いくつかの選択肢があります。
- 矯正治療(マウスピース・ワイヤー)で歯並びを整える
- 外科矯正(手術+矯正)で根本的に改善する
- ボツラックス注射で筋肉の働きを抑えて印象を和らげる
しゃくれは、遺伝的な要因や習慣的な癖が原因となり、見た目だけでなく、咬み合わせや健康面にも悪影響があります。しかし、適切な治療や早期の対策を講じることで、これらのリスクを軽減し、健康的な生活を取り戻すことができます。
しゃくれの問題を抱える方は、まず歯科医師に相談し、外見をどの程度改善出来るかを確認しつつ、ご自分に合った治療法を見つけることが大切です。