歯科矯正全般

矯正中に虫歯になった場合の治療について

矯正治療中に虫歯になった場合の治療について

矯正装置を装着すると日常の口腔ケアが難しくなり、食べ物のカスやプラークが溜まりやすくなるため、矯正治療の過程で虫歯のリスクが高まることがあります。矯正治療中に虫歯が発生した場合の対応方法についてご説明します。

矯正治療中に虫歯ができる原因

矯正中に虫歯ができやすい理由はいくつかあります。まず、矯正装置が歯に装着されることで、食べ物のカスやプラークが溜まりやすくなり、同時に歯磨きが難しくなります。これが原因で細菌が繁殖しやすくなり、虫歯が発生するリスクが高まります。

矯正装置が歯磨きを難しくする

矯正装置は、特に固定式のブラケットやワイヤーが付いている場合に、歯磨きやフロスの使用が難しくなります。ブラケットやワイヤーの周りに食べ物や歯垢が溜まりやすく、これが虫歯の原因となります。セルフケアが不十分になると、プラークがたまり、虫歯菌が繁殖する環境が整います。

食生活の変化

矯正治療中は、装置の影響で食事に制限がかかることがあります。例えば、硬い食品や粘着性のある食品を避けることが推奨されます。しかし、代わりに柔らかい食品や甘いスナックを頻繁に摂取すると、これもリスクを高める要因となります。特に、糖分が多い食品は虫歯菌の栄養源となり、症状を悪化させます。

唾液の流れが阻害される

矯正装置が口腔内にあると、唾液の自然な流れが妨げられることがあります。唾液は自然な抗菌作用を持ち、口腔内のpHバランスを保ち、食べ物の残留物を洗い流す役割を果たします。唾液の流れが妨げられることで、お口の中が酸性に傾いたり、汚れが付いたままになりやすく、虫歯のリスクが高まります。

歯垢の付着が増える

矯正装置があることで、歯の汚れの除去が困難になり、結果としてプラークの蓄積が増加します。歯垢は細菌の塊で、虫歯や歯周病の主要な原因となります。特に矯正装置やワイヤーの周りに歯垢が溜まりやすいです。

矯正治療中の虫歯はどんなタイミングで見つかる?

「矯正治療中に虫歯ができたらどうしよう?」と不安に思われる患者さんも多いのではないでしょうか?矯正装置をつけていると、通常よりも歯磨きが難しくなり、歯垢が溜まりやすくなります。では、矯正治療中の虫歯はどんなタイミングで見つかるのでしょうか?

1. 定期健診のタイミングで発見

矯正治療を受けている患者さんは、定期的に歯科医院でチェックを受けることが一般的です。多くの場合、1〜2か月ごとに調整のため通院します。その際、歯科医師が装置の状態だけでなく、歯の健康状態も確認するため、虫歯が見つかることがあります。

特に、以下のようなポイントがチェックされます。

  • 矯正装置の周りに歯垢や歯石が溜まっていないか
  • 歯の表面に白く濁った部分(初期虫歯)がないか
  • 歯と歯の間に黒ずみが見られないか

「虫歯があったらすぐに治療できるの?」と思われるかもしれませんが、矯正装置の種類によってはすぐに治療ができない場合もあります。そのため、定期的なチェックと予防がとても重要です。

2. 痛みやしみる症状が出たとき

意外と見落としがちなのが自覚症状です。矯正中は装置による違和感や圧力がかかるため、「痛みが装置の影響なのか、他の原因なのか分からない」ということもあります。

以下のような症状が出たら、虫歯の可能性が考えられます。

  • 冷たいものや甘いものがしみる
  • 歯の表面に違和感がある
  • 食べ物が特定の部分に引っかかる
  • 歯ぐきが腫れたり、炎症を起こしている

「痛みがあるけど、矯正治療中だから仕方ない」と放置してしまうと、トラブルが大きくなることもあります。気になる症状があれば、すぐに歯科医院で相談しましょう。

3. 矯正装置の調整時に発見

ワイヤー矯正やマウスピース矯正では、装置の調整時に虫歯が見つかることがあります

ワイヤー矯正の場合

  • ワイヤーを外す際に歯の裏側や装置の下に隠れていた虫歯が見つかる
  • ゴムかけをする部分に違和感があり、診察すると虫歯が見つかる

マウスピース矯正(インビザライン)の場合

  • マウスピースを交換する際に歯の色や形の変化に気づく
  • マウスピースのフィット感が変わることで異常が分かる

矯正装置があると、普段見えにくい場所に虫歯が隠れてしまうことも多いため、調整時に歯科医師が確認することが大切です。

4. 矯正治療の終了時に発見

実は、矯正治療が終わった後に虫歯が見つかることも少なくありません。

矯正装置を外すと、今まで見えなかった部分がはっきりと確認できるようになります。すると、以下のような状態が発見されることがあります。

  • 矯正装置があった部分に白斑(初期虫歯)ができている
  • 歯間に小さな虫歯ができている
  • 装置を外した部分のエナメル質が弱くなっている

「矯正がやっと終わったのに、今度は虫歯治療が必要になるなんて…」とがっかりされるかもしれません。しかし、これを防ぐためには、矯正治療中のしっかりしたケアが重要なのです。

矯正中に見つかった虫歯治療のタイミングは?

「矯正治療中に虫歯が見つかったらどうなるの?」と不安に思われる患者さんも多いかもしれませんね。矯正装置をつけていると、虫歯治療のタイミングが気になるものです。

1. 虫歯の進行度による治療のタイミング

矯正中の虫歯治療は、虫歯の進行度によって適切なタイミングが異なります。

初期虫歯(C0・C1)

  • 白斑や軽度の脱灰が見られるが、痛みはない。
  • フッ素塗布や歯磨き指導を徹底しながら経過観察。
  • 矯正装置を外さずに対応可能。

中等度の虫歯(C2)

  • エナメル質が溶けて象牙質に達しているが、痛みは軽度。
  • ワイヤー矯正の場合:ワイヤーを外し、必要最小限の削りで治療。
  • マウスピース矯正(インビザライン)の場合:一時的に治療期間を調整して対応。

進行した虫歯(C3・C4)

  • 神経に達する深い虫歯。
  • 優先的に虫歯治療を行い、必要に応じて矯正装置を外す。
  • 矯正治療のスケジュールを調整する場合あり。

2. 矯正治療の種類による治療のしやすさ

矯正装置の種類によっても、虫歯治療のタイミングや進め方が変わります。

ワイヤー矯正(ブラケット矯正)の場合

  • ワイヤーが邪魔になるため、ワイヤーを一時的に外して治療することが多い。
  • 虫歯が多発する場合は、矯正の進行を一時的に停止することも。
  • 小さな虫歯なら、ワイヤーを外さずに治療できるケースもある。

マウスピース矯正(インビザライン)の場合

  • 取り外しができるため、比較的治療しやすい。
  • 虫歯の治療後、マウスピースを作り直す必要があることも。
  • 進行した虫歯がある場合は、矯正計画を一時変更する可能性あり。

3. 矯正前に虫歯治療を終えておくべき理由

矯正を始める前に虫歯を治しておくことが理想的です。理由は以下の通りです。

  • 矯正装置がつくと治療が難しくなる
  • 虫歯の進行に気づきにくくなる
  • 矯正治療の計画が変更になるリスクがある

そのため、矯正前にはレントゲン検査や口腔内チェックをしっかり行い、虫歯を治療してから矯正を始めるのがベストです。

4. 矯正中に虫歯を防ぐためのポイント

矯正治療中に虫歯を防ぐためには、日々のケアがとても重要です。

  • 矯正専用の歯ブラシを使う
  • フッ素入りの歯磨き粉を活用する
  • デンタルフロスや歯間ブラシを使用する
  • 食後すぐに歯磨きをする習慣をつける
  • 甘い飲食物を控える

矯正治療中は特に歯磨きが難しくなりがちなので、定期的に歯科医院でクリーニングを受けることも大切です。

矯正中の虫歯の予防方法

矯正中に虫歯が発生した場合、担当医の判断で治療を行うタイミングが決定されます。矯正装置が歯に装着されている場合の虫歯治療は、通常とは異なるアプローチが求められます。以下に、矯正装置がついている場合の具体的な方法についてご説明します。

1. 取り外し可能な装置の場合

インビザライン

取り外し可能な矯正装置(例えば、インビザラインなど)を使用している場合は、虫歯の治療は比較的簡単です。この場合、装置を一時的に外した状態で行います。

治療手順

  • 矯正装置を取り外す
  • 虫歯をきれいに削り取る
  • 必要に応じて、レジン充填、詰め物、被せ物をする
  • 矯正装置を再装着し、治療を再開する

2. 固定式の装置の場合

ホワイトワイヤー矯正

固定式の矯正装置(ブラケット、ワイヤー)を使用している場合、虫歯治療はより複雑になります。以下の方法が一般的です。

部分的に装置を外す

  • ブラケットの一部を一時的に外すことで、虫歯部分にアクセスしやすくします。
  • 虫歯の治療が終わった後、再びブラケット、ワイヤーをつけ直します。

3. 虫歯の進行状況に応じた処置

虫歯の進行状況によって、治療法が異なりますが、ほとんどの場合、装置を一時的に外さねばなりません。

初期の虫歯

矯正装置を外さずにフッ素塗布やシーラント(歯の表面をコーティングする素材)を使用して、虫歯の進行を防ぎます。

中程度の虫歯

虫歯部分を削り、レジンを直接充填して特殊な光で固め、最後に表面を磨きます。矯正装置を部分的に外して治療を行います。

重度の虫歯

重度になると、根管治療が必要な場合があります。これは、歯の神経や根の部分にまで虫歯が進行した場合に神経を取り除く処置です。神経を取り除いた後は、被せ物を装着して歯を保護します。この場合、矯正治療の進行が一時的に中断されることがあります。

4. 矯正中に虫歯治療を行う場合に考慮すべき事柄

  • 治療のタイミング・・矯正中の場合は、虫歯治療を行う歯科医師と矯正担当医との連携が重要です。治療のタイミングや方法について、両者が協力して最適な治療計画を立てる必要があります。
  • 矯正装置の調整・・虫歯治療後、矯正装置の調整が必要となることがあります。特にクラウンや詰め物を行った場合、装置のフィット感や効果が以前と異なることのないように、再度調整が行われます。

5. セルフケア

歯のケア

矯正治療中に虫歯になった場合は、適切な対応を取ることで進行を防ぎ、矯正をスムーズに進めることができます。

  • 定期的な歯科健診・・定期的な歯科健診を受けることで、早期発見と予防が可能です。特に矯正治療中は、定期的なチェックが重要です。
  • 適切な口腔ケア・・正しい方法での歯磨きとデンタルフロスの使い方をマスターし、日常的に実践することが大切です。歯間ブラシやフッ素配合の歯磨き粉を使用することが推奨されます。

矯正治療中に虫歯を放置した場合のリスク

虫歯を放置すると、以下のようなリスクが生じます。

  • 矯正治療の遅延・・虫歯の治療が優先され、矯正が中断する可能性があります。
  • 歯の構造の損傷・・虫歯が進行すると、歯の大部分を失うリスクがあります。
  • 痛みや不快感の増加・・虫歯が神経に達すると、激しい痛みを引き起こします。

まとめ

矯正治療中に虫歯が発生した場合でも、適切な対応を取ることで進行を防ぎ、矯正治療をスムーズに進めることが可能です。

取り外し可能な装置を使用している場合は比較的簡単に治療が行えますが、固定式の装置がついている場合でも、一時的に取り外すことで治療が可能です。

虫歯治療後は装置の調整が必要となることもありますが、歯科医師と矯正担当医の連携により、最適な治療計画を立てることができます。

この記事の監修者

医療法人真摯会
理事長 歯科医師 総院長
松本正洋
クローバー歯科、まつもと歯科 総院長。国立長崎大学歯学部卒業。1989年歯科医師免許取得。1998年医療法人真摯会設立。矯正歯科の認定多数。日本抗加齢医学会 認定医。

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