
近年、矯正治療における透明なマウスピース「インビザライン」が大きな注目を集めています。2006年の日本導入以来、数年でその人気は急速に高まりました。しかし、実際に使用した患者さんからはいくつかの後悔の声が上がっていることも事実です。後悔しないために治療前に知っておくべき注意点についてご説明します。
インビザラインで後悔した内容

1. 歯並びは改善されても噛み合わせに問題が発生することがある
マウスピース矯正インビザラインでは、見た目の美しさを重視しがちですが、歯並びが改善されても噛み合わせが悪化した患者さんがおられます。これは、歯を移動させる際に噛み合わせに変化が起こって、咬合に問題が起こっている状態で食べ物を噛み続けたために顎関節に負担がかかってしまったことが理由です。
噛み合わせに問題が起こらないよう、見た目と咬合の両方を整えるように治療計画を立てることが大切です。
2. 治療中に起こる様々な手間と不便さ

インビザラインは取り外しが可能であり、透明なマウスピースであることから社会生活においての違和感は少ないといえます。しかし、食事の度に外して、マウスピースの洗浄と歯磨きを終えてから再装着しなければならない手間や、装着している時間(1日22時間以上が推奨)の管理が意外と大変で苦労する患者さんもおられます。
間食も含めて飲食のたびに歯を磨いてマウスピースを洗う必要があるので、外食が多い方には不向きかもしれません。
3. 歯が動いている実感がわきにくい
マウスピース矯正はアライナー(マウスピース)1枚あたり、歯は僅か0.25mmしか移動させることが出来ません。そのため、開始から数ヶ月経ってもあまり歯が動いていないと感じる方が多いです。
ただ、1枚目のアライナーの形と現在使用しているアライナーを比べてみると、明らかに歯は動いていますので、ご安心ください。
4. 費用が高額になる

歯列矯正は一般的に保険適用にはなりません。そしてインビザラインでの治療は従来のワイヤー矯正に比べて費用が高額になることが多く、その費用対効果を考えると後悔する患者さんもおられます。
治療前にはしっかりと費用の見積りを取り、矯正装置を決める際には総合的な判断が求められます。
5. インビザラインが適していない複雑な不正咬合だった
インビザラインはすべての歯列矯正に適しているわけではありません。誤った適応の例は以下のような場合です。
- 複雑な不正咬合・・重なりが大きかったり、複雑に入れ組んだ歯並びや、顎の位置の異常によって起こっている不正咬合の場合は、マウスピースでの治療が適さないことがあります。
- 過度の動きが必要なケース・・歯を大きく移動させなければならない場合、マウスピースで動かすだけでは不十分なことがあります。
これらのケースでは、ワイヤー矯正や裏側矯正で行います。場合によっては外科矯正をおすすめする症例もあります。
6. 治療期間が長い

インビザラインで抜歯矯正を行ったり、複雑な動きが必要な場合には、ワイヤー矯正、裏側矯正と比べて全体の期間が長くなります。マウスピース矯正ではアライナー1枚あたり0.25mm程度の歯の移動となりますので、大きく動かす場合にはかなり時間がかかり、期間が3年以上かかる場合もあります。もっと早く治療を終えたかったとおっしゃる患者さんもおられます。
7. 治療計画の内容が不十分だった
インビザラインではクリンチェックというソフトを用いて患者さんの歯型データをもとに治療計画を作成します。クリンチェックではAIが作成した計画に、担当医が手を加え、何種類かの治療計画から最適なものを選択します。
また、クリンチェックに担当医が手を加える場合には、歯の位置や高さ、角度を自由にシミュレート出来ますが、実際にはどんな動きでも可能なわけではありませんし、歯茎も自由に伸び縮みするわけではありません。
担当医の経験や技術が不足している場合、無理な歯の動きを計画に盛り込んでしまうことがあり、それが失敗につながるケースもあります。
8. 治療後の後戻りが起こる

歯列矯正では、治療完了後にリテーナー(保定装置)を着用しなければ、元の歯並びに戻ってしまう「後戻り」が発生します。
リテーナーが固定式の場合はご自身で着脱が不可能なので、後戻りの心配はありませんが、マウスピース型などの着脱式のリテーナーの場合は、装着忘れが発生しやすく、注意が必要です。
治療効果を維持するためには担当医の指示に従った方法でリテーナーを長期間装着することが必要です。
【動画】インビザラインの後悔 BEST6
インビザライン治療で後悔しないためのポイント
「インビザラインを始めたけど、思ったのと違った…」と後悔するかもしれないと心配になられる方もおられるでしょう。
事前にしっかりと準備し、正しい知識を持っておけば、後悔のリスクを減らすことができます。
1. インビザラインが向いている症例かどうかを確認する
「インビザラインならどんな歯並びも治せる」と思われている方も多いかもしれませんが、実は適応症例には限りがあります。
例えば、以下のようなケースではインビザライン単独では難しい場合があります。
- 重度の不正咬合(顎のズレが大きい場合)
- 抜歯が必要な症例(抜歯後のスペースを大きく移動する場合)
- 大きな回転移動が必要な歯(特に犬歯の大きな回転は難しい)
歯科医師による診断を受け、ご自身の症例が本当にインビザラインに適しているかをしっかり確認しましょう。
2. 1日22時間以上の装着が本当にできるか?
インビザラインは、1日22時間以上の装着が推奨されています。つまり、「食事と歯磨き以外の時間は常に装着している」必要があります。
- 食事のたびに取り外し、食後は必ず歯磨きをする
- 長時間の飲食が必要な場面(会食・旅行など)でも管理できるか
慣れるまでは、「思ったより面倒だった」と感じる患者さんも多いのです。日常生活のスタイルを振り返り、「本当に続けられるか?」を考えてみましょう。
3. アライナーの交換を守れるか?
インビザラインでは、7日〜1週間程度で新しいアライナーに交換する必要があります。しかし、交換を忘れたり、自己判断で早めたり遅らせたりすると、治療計画が崩れてしまいます。
- 交換日は必ず守る
- 担当医の指示に従う
- 紛失・破損した場合はすぐに対応する
「自己管理が苦手な方」は、リマインダーを設定するなど工夫が必要です。
4. 期待する仕上がりと現実のギャップを理解する
「インビザラインなら痛みが少なく、簡単に歯並びが整う」と思われるかもしれませんが、完全に痛みがゼロではありませんし、動きにくい部分があると治療が長引くこともあります。
また、歯を動かすスペースを作るために歯を少し削ることもあるため、「歯を削りたくない」と思っている方は事前に確認しておくことが大切です。
さらに、他の矯正装置の場合と同じく治療完了後も保定装置(リテーナー)を装着しないと後戻りするため、治療後のケアも考慮に入れておきましょう。
5. 費用と期間の現実的な把握
インビザラインは、比較的高額な治療です。また、治療期間も短くはなく、通常1年半〜2年ほどかかります。
- 費用はクリニックによって異なる
- 追加費用(調整料・リテーナー代)がかかる場合も
- 治療が長引く可能性も考慮する
「思ったより高かった」「こんなに時間がかかるとは…」と後悔しないためにも、事前に詳細を確認しておきましょう。
「こんなはずじゃなかった…」とならないように、事前にしっかり準備し、納得したうえで治療を始めましょう。「インビザラインが自分に合うのか不安…」という患者さんは、まずは歯科医院で相談してみてくださいね。
まとめ
インビザライン治療を受けられる患者さんが後悔しないために、治療前の十分な情報収集と、歯科医とのしっかりとした相談をお勧めします。
インビザラインは多くのメリットを持つ優れた矯正治療法ですが、デメリットも理解することが大切です。見た目の改善だけでなく、噛み合わせや咀嚼といった機能的な側面も考慮に入れることが重要です。